歩むことの重みif story〜ｼｬｰﾛｯｸ〜【憂国のモリアーティ】

探偵ｼｬｰﾛｯｸ･ﾎｰﾑｽﾞ ページ1

ベーカー街

「ｱﾞｧﾞ!? 何で荷物が増えんだよ!!」
「シャーリー？ 今の発言は取り消し、即座に謝罪したまえ」
「つか何で兄貴までいんだよ！」

弟の家主に挨拶を。そして、お前のお目付役の部屋を私がひとまず借り受ける形になるからだとクソ兄貴はドヤ顔で宣いやがった。
その横で俺の荷を解き、机や棚に並べる──

「ユーク、それは薬品名順よりも使用頻度毎に並べろ。あと……」
「危険なのは別に鍵の掛かるこちら、シャーレは布を巻いた木組みのに、でしょう？」

これで決まりだな、と兄貴は大家であるハドソンさんに「少々手の掛かる弟で、ご迷惑をお掛けするかと思いますが」と前置きし、暫くはユークが監督致しますので何卒よろしくとか何とか言って去っていった。

「ｹｯ……人を何だと思ってんだよ」
「灰色の脳細胞に彩りを添える為には違法すれすれの捜査をしてヤードから身元引受人としていつ呼び出されるかもわからない行動をする厄介製造機」

……一息に言うかよ、しかも何だよそれ。足早にハドソンさんは口元を押さえ肩を震わせながら出て行く。直ぐ様階下から笑い声が木霊した。

「薬 物、思考が何より大切なのに退屈に負け、気を紛らわせる為と使って身体を壊したら元も子もないわよ」
「……るっせーな」

親や兄貴の次に付き合いの長いユークを付けた兄貴の思惑は概ね正しい。

「『諮問探偵ｼｬｰﾛｯｸ･ﾎｰﾑｽﾞ』の名を馳せて見返しなさいな」

言われなくてもせのつもりだ。

「じゃあユークは俺の耳目となって極上の謎を持ち帰る、アレだな」
「昔みたいにパシリや助手はしないからね。マイクロフト兄様の頼みじゃなければ、シャロに人間らしい生活をおくる手伝いなんかしないわ」

人間らしい生活ってなんだよ、クソ。

「睡眠、食事、お風呂に入って着替えもする、歯を磨く、薬を控える、ええっと、後それから……」
「もういい、わかったから黙れ」
「シャロは人には無遠慮なくせに、自分のパーソナルスペースには煩い。自分と釣り合いが取れない思考の持ち主は嫌い、踏み込ませない。警戒心が強くて図体だけ大きな野良犬ね」

お前も大概だ、そしてユークを睨みつけても「はいはい」と、そよ風に揺れる野花のように動じずに荷物整理に戻る。
この図太さに兄貴仕込みの観察眼と口達者なユーク、仕事が軌道に乗るまでお目付役なのは退屈しないが、この距離感がもどかしく、気付けば苛立つのが、厭だ。

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