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3,触らぬ神に​─​── ページ7




​────後ろの正面だあれ。


 開店準備の最中に立ち尽くす影に気付いた。ド派手なピンク髪の三途さんはその見た目とは裏腹に陰鬱な顔で佇んでいた。 三途さんも昨日のことをしっかり全て覚えているんだ、なんなら私よりも重く捉えてそう。なら逆に私が軽く捉えてるとかではない。
 ただ、彼がこれをきっかけにもしかしたら店に来なくなるんじゃないか、と恐怖よりも寂しさが勝った。だから、彼が気遅れていたとしても私は自分の自然に従った。


「出来上がるまで少々お待ちくださいね」


 軽く頷いて、三途さんはやっぱり気まずそうにしている。何か気を使って話そうかと思っても何の話題も私にはない。ふと、じゅう、と綺麗な焦げ目が付いたたい焼きを見ながらあっ、と言ってそのまま勢いで話し掛けた。


「三途さんは甘いもの好きですか?」
「え、いやオレ…」


 戸惑う様子になにかおかしかったか、自分の言葉を脳内で反芻して、自分の発言の過ちに気付いてすぐに謝った。彼はフォークなのだから、味覚が分からない。食べ物は全て味がしないのだから、好きも嫌いもないはずだ。本当になんて気が回らないんだ私は、と自己嫌悪に陥る。


「すみません!!ほんと、すみません…配慮が足りませんでした…!」
「大丈夫です、気にしてないんで謝る必要はないです。
つか、謝らねえとならないのはそもそもオレですから、昨日のは本当すみません、出来れば忘れてください」


 ずき、とその言葉が針のように心に刺さった。“出来れば忘れてください”という最後がトドメを刺すようで、彼はフォークとして私を求めてしまったことを忌みているんだ。もう私は貴方に囚われているのに、たった一度しか出来ない恋を貴方に捧げたいのに。


「嫌です、忘れたくないです」
「は…?それ、っどういう意味か分かってんのか?」


 しまった、と口を抑えた。羞恥でほんの少し顔が熱くなる気がして、恐る恐る三途さんの方へと視線を向ければ彼も口許を抑えて赤面していた。



 今、言ってしまえばもしかして私はこのまま死ぬのかも、怖さなど何も無かった。そのまま、私、と言葉にした所で携帯の着信音に遮られてしまう。私達は現実に引き戻されたように、ハッとして私は鉄板に視線を向けて、彼は電話にでてそのまま一度外に出て行ってしまった。手を頬に添えるとひんやりとしていた。ああ私の顔もやっぱり赤くなっていたんだ。


⥥→←⥥



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パチンカスヱ(プロフ) - 凛愛さん» ありがとう😌💕こちらこそ最後までお付き合い頂きありがとう😌 (2021年12月30日 8時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - 完結おめでとうございます!表現ひとつひとつが刺さるお話でした…!!たった一度の恋をこんなにも儚く美しく書ける文才に感嘆するばかりです。書いてくれてありがとう!!ココくんの新作も楽しみにしてます🥺🥺 (2021年12月26日 20時) (レス) @page17 id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
凛愛(プロフ) - 完結おめでとう!!泣きました…素敵なお話をありがとう…😭😭 (2021年12月26日 13時) (レス) @page17 id: f83a603b36 (このIDを非表示/違反報告)
パチンカスヱ(プロフ) - 桜峰瑠璃さん» 嬉しいです……!!!! 一緒に出頭しましょう🥰 (2021年12月2日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
桜峰瑠璃(プロフ) - ヤバい!!!全性癖にぶッ刺さる!()しゅき…興奮する!!!!!(通報案件) (2021年11月30日 17時) (レス) @page5 id: 643076eff9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:パチンカスヱ x他1人 | 作成日時:2021年11月24日 6時

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