世界はファンシー Ⅱ (ページ34)

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マスターボリューム　　#伍ページ34

俺は目の前に提示される情報に集中するため、わざと音を聞かないよう神経を“集中しない”状態にしてなきゃいけなかった。

本能を躱しながら敢えて一つの動作を続けるのって、なかなかの苦行なわけで。
ほぼ一日中それをしていた俺は、帰り道を歩きながら息抜きとして、逆にちょっと一点に神経を向けたんだ。

そしたら、割と近いところから幾つかの音が連続して聞こえてきた。叫び声、火が暴発する音、断末魔。
そして炎が立つ音。

(火事かよ…？！)

よりにもよって。火事はヤバいだろ。
意識を集中して場所を特定しようとしたけど、俺の能力ではそれは難しい。聞こえても見えるわけじゃない。

炎の音の方向を探る。風向きを聞く。
喋り声の中に場所を表すワードが無いか耳を欹(そばだ)てる。
全神経をその場へと研ぎ澄ませる。

(一番最初に飛び込んできた音だから、結構近くのはず…)

音を辿って渋谷の駅方面から奥へと急ぐ。
段々と炎や呻き声が大きくなってくる。近づいてる証拠だ。

辿り着いた現場は、何の変哲もない雑居ビルが立ち並ぶエリアだった。渋谷なのに人通りもあまりない路地。
その奥に赤い火の手が見えた。

(原因は何だ？放火か自然発火か…事件？事故？)

路地から少し離れたところに、少年と少女が呆然と突っ立ってるのが見えた。

(……高校生？)

二人の様子が少しおかしいと思って、神経を尖らせ、会話を聴く。
何か手掛かりがあるかもしれないっていう、単なる直感。

『────あいつは…？』

男の方の声…若干震えてるのか？

『ねえ。あの男は……？』

『────行こう。』

『────え…？』

『行こう。帰ろう。』

『え…でも…』

『正当防衛だよ。』

思わず女子の方を見る。……正当防衛？

(一体何があった？)