世界はファンシー Ⅱ (ページ33)

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マスターボリューム　　#肆ページ33

俺には幼少期から人と異なる能力──巷で“スペック”なんて呼ばれてるもの──超聴覚がある。つまり、聴覚が異様に鋭い。
ぼんやりしてるとそこら中の溢れる音が、洪水のように耳に頭に飛び込んでくる。測ったことないけどおそらく半径2km前後以内くらいまでの音は、意識を飛ばせば聴こえるんじゃねーかな。

とにかくそんななので、意識して“聴かない”ようにしなきゃならない。じゃないと発狂する。これは冗談抜きで。
だって考えてもみてよ。始終他人の感情みたいなもんが聞こえんだよ？

さすがに頭の中・心の中の声なんてものは聞こえるわけはなく、聴こえるのは物理的に振動して出てる音だけだが、かなり微かな振動でも意識を向ければ聴こえる。
囁き声も。呻き声も。嗚咽も。
風が流れる音も。水が零れる音も。

世の中の音が自然なものだけなら、ここまでしんどくはないんじゃないかなと思ってる。
自然が出す音は、それが悲しい音や痛ましい音で鎮痛な気持ちを引き起こしても、まだ耐えられる。世界にはその痛みを超える美しい音もあるからだ。
それで相殺、っていうんじゃないけど薄めてもらえる。

でも自然が発するものでない音──言ってしまえばこの世にある、何かしら自我が絡む音──をランダムに聴いてるのはかなりしんどい。ツライ。
ツライっつーか、吐きそうになる。人間の自我は醜くえげつない。煮ても焼いても食えるもんじゃない。

そんなありがた迷惑なスペックに対して俺が編み出した対応策は、わざと何かに集中すること。
周りの音に集中“しない”ようにすることで、溢れる音を遮断するわけだ。うーん、俺って天才じゃん。

ゲームは格好のツール。何も考えず・聞かずに没頭できる。
俺がゲームばかりしてるのは、そういうことなわけだ。雅紀たちは俺のことをゲーム中毒みたいに思ってるけどな、理由があるんだよ。

…まぁ、単純にゲーム好きなのもあるけどね。

どこか遠くで聞こえるサイレンが、あの日の光景を脳内に徐々に鮮明に連れ戻し始める。まるで白黒映画に少しずつ色が浮き出てくるように。

訳あって俺は現在はAと同じ学校の院に籍を置いてるけど、オレの本来の所属先は警視庁。
あの光景は、朝から先輩刑事にくっ付いて事情聴取をしてた、まだ刑事になって最初の冬。

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