世界はファンシー Ⅱ (ページ21)

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フィクションフリークライシス　　#肆ページ21

Aの後、数人の診察をこなしたところで腕の時計を見ると

「……もう13時か。」

グゥゥーッと伸びをする。

「先生、お疲れ様です。午前の患者さんは先ほどの方で最後です。」

「はい、おつかれさま。じゃ、休憩行ってきますんで。」

パンドラウイルス騒動で、病院内の食堂も売店も閉じている。

(やっぱ、ここに届けてもらえばよかったかな。)

Aに頼んだ中華弁当のテイクアウトを、今日の昼ごはんの出前にしなかったことを少し悔やむ。
いやしかし医療従事者としては正しい判断だった、と言い聞かせる。そんなしょうもないことでクレームついたり咎められたりして目立つのは得策じゃない。

(通勤途中で買ったパンを食べるか。)

休憩室に戻るついでに事務室に書類を持って行く。

「あ、櫻井先生。こちらが届いてました。」

「ども。」

渡される書類。封書。

デスクに。電話に。手渡す職員の指に。
何気なく触れていく。

様々な映像が脳内に流れ込んでくる。

屋上に出る扉を開けて見渡す。誰もいない。

まぁ、こんなクソ寒い風の強い日に屋上で昼飯食おうというモノ好きはそうそういないか。
ポツンと佇むベンチに腰掛け、持参したコンビニのサンドイッチの袋を開けて齧る。

ランダムに見聞きした情報を、サンドイッチを食べながら頭の中で整理する。

ウイルス感染者数、それによる死亡者数。
各国の感染パターン。

いまだ、何処の国も対処できずにいるらしい。
外郭くらいは出来上がりつつあるんだろうか。これだけの金と知恵をブッ込んでいるのだから。
人智とウイルス、どっちが勝つかな。

未曽有のウイルスの攻撃は静かに音を奏で始めたと思ったら、開始数小節でいきなりクレッシェンドからのフォルテッシモ。初っ端からアレグロで一気にまくしたて、盛り上がってく。
そこにあちこちでの天災や人災が加わって、すっかり重厚な協奏曲に。
終楽章の演奏が楽しみだな。

缶コーヒーを飲み干して、背もたれに体を預ける。首を逸らせて空を見上げる。

金欲、権力欲、征服欲。
邪念に傲慢。
それらが長い年月かけて煮込まれて、出来上がったスープは魔女のスープの様相で、もはや人の食えるシロモノではない。

……どこでレシピを間違ったんだろうな、この世界は。