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何があったのか、言ってよ伏黒。そう言うAは少し悲しい目をしていた。
呪術師のことを安易に非術師に言っては駄目だということは知っている。
でも。
「……A、呪術師って、知ってるか」
気づいた時にはもう、口から出ていた。
しまった、と口を押さえたがもう遅い。Aは呆然とした表情で俺を見つめていた。
なんでもない、忘れてくれ、と俺は言うが、Aは反応を示さない。
「……知ってるよ」
そう言われて、どきっとした。一番予想からかけ離れた答えだったから。
Aは俺を手招きして教室の中まで呼び込み、それから頬を人差し指で掻きながら言った。「知ってるというか……聞いたことある、みたいな」
「私のおばあちゃんが小さい頃、幽霊……怪物みたいなものに襲われたんだって。それで、もう死ぬ!ってところで、黒い服の人がその怪物を倒したらしいの。後々おばあちゃんはその黒い服の人が『呪術師』ってことを知ったの」
伏黒もその『呪術師』なんでしょ、とAは言った。俺がなんの反応を示さなくても、Aは俺が呪術師だということはわかったようだ。
俺とお前の間には、強く線が引かれている。Aはこっちに来てはいけない。お前には、普通の学生として、幸せに生きていてほしいから。
この感情が、何という名前であるかは知っている。
「わたし、幽霊とか信じないから、いまいちよくわからないけれど」
「信じなくてもいいけど、」
「けど?」
「俺たちは、住む世界が全く違うんだ。それだけは本当だ」
そこまで言って、俺は軽く俯いた。Aの顔を見ることができない。Aの茶色いローファーを見つめる。
「……でも、壁は作らないでね」
思わず顔を上げると、Aの瞳はしっかり俺を捉えていた。窓から吹く風に運ばれる髪の毛は金色に輝いている。
「伏黒が呪術師で、私がただの学生で、わたしと伏黒が全く違うところにいても、それでも私たちは同じクラスメイトだったんだから。だから壁作らないで、わたしのことちゃんと見て」
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作者名:ももちゃわ | 作成日時:2021年4月14日 21時