さよならの教室【伏黒恵】 (ページ5)

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「……でも、伏黒超モテるから、彼女作ろうと思えば秒で作れるよね」

人聞きの悪い言い方を、と俺は顔を歪めた。Aは俺のしかめっ面が面白かったのか、くすくすと笑いながら「モテ男の顔が台無しだ」と言った。

「モテるっていいよな～」
「そうかよ」

ぶっきらぼうに俺は返事した。Aはため息に混じりに続ける。
「私もモテたらなあ、速攻でイケメンと付き合うのになあ」

別にAもモテていなかった訳じゃなかったのに。無邪気な笑顔がかわいいという声を何度か聞いたことがある。
まあこれ言ったら絶対面倒くさいことになるから言わないけれど。俺は適当に相槌を打った。
モテたーい、と小さく叫ぶA。一応迷惑とかバレる危険性とかを考慮した音量だった。
「伏黒クン、モテる秘訣は？」とマイクを差し出す真似をして、Aは記者のようにたずねる。そのおふざけに少しだけ乗り、「それは、特に何もせず普通に過ごすことが秘訣ですね」と記者の質問に答える有名人のように敬語で答えた。
Aは記者ごっこをやめたのか、「モテ男が！」と俺に掴みかかってきた。

「ほんと、なんで彼女作らないか疑問だよ。ねえ、なんで作らないの？」
「興味がないから」
「うわっ、伏黒っぽい」

なんだそれ、と俺の返しにAはくすくすと笑った。

本当は。本当は、うまく関われなくなったからなんだ。非術師と。
呪術師になって非術師＿＿普通の人と関わる機会が減って、いつの間にか壁を作っていたから。

だから、こうやってお前にさえもまた壁を作ってしまう。

俺、本当に変わってないな。そう気づいてしまって、俺は少し悲しくなった。