さよならの教室【伏黒恵】 (ページ3)

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吹奏楽部や美術部などの室内部活の人とすれ違うのではないかと思ってたけど、校内はがらんとしていた。そっちの方が好都合だけど。知ってるやつに会うなんてただ気まずいだけだし。

「屋上って空いてたっけ？」
「あー、一応開いてなかったっけ。……行くのか？」
「まあ、特に行くとこないし……あれ、立ち入り禁止だったっけ」
「忘れた。まあ、いいだろ、見つかんなければ」

言い終えてから、なんだか俺らしくないことを言ったなと気づいた。ちらりと目だけ動かしAの反応を伺うが、Aは可笑しそうに笑って「そうだね」と言った。

学校の最上階まで上がって、少し錆びついたドアノブを回す。
「開いてる」
「え、マジ？よっしゃ、行こ」
壁に貼り付けられた「立ち入り禁止」の張り紙を無視して、屋上へと出る。ちょっとした不良でもいるんじゃないかと思ったが、屋上には誰一人もいなかった。どこかの部活のかけ声が聞こえる。

「立ち入り禁止って書いてたな」
「いい、いい。開けてたのが悪い」
「まあ、そうだな」

ふ、と小さく笑うと、Aが驚いたようにこっちを見て、それからにっこりと笑った。
ブレザーのバッジが夕日に照らされてきらきら輝く。
ブレザーを纏ったAと、黒い制服を纏った俺の住む世界は違うということはとっくにわかっていた。まだ同じ制服を着ている時からだ。

「伏黒！」

いきなり名前を呼ばれてびっくりした。平常心を装ったように「なに」と短く問えば、「みてみて」と屋上の隅を指さした。

「青春だ！」

対面して何かを話す女子生徒と男子生徒。二人の顔は見えないが、どちらも耳が真っ赤になって軽く俯いている。告白をしているのだろうか。

「……成立したようだな」
「お！カップル誕生！」

どうやら男子がOKを出したようで、ぺこりと頭を下げていた。嬉しそうに女子が笑う。
Aは「よかったよかった」と音を立てずに小さく拍手をした。

「あ、こっちにくるぞ」
「やばい、隠れろ隠れろ」

俺たちは急いで塔屋の後ろに隠れた。二人は校舎内に戻るため塔屋に向かうんだから、塔屋に隠れてどうするんだと思ったが、他に隠れることが出来そうなものがなかったので仕方なく。
見つかったら確実に不審者だと思われる。それは絶対に避けたい。
楽しそうに笑う男女の声が徐々に大きく聞こえてきた。