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寒い、と小さく呟いた。
今日はちょっとした任務があった。母校の近くで呪霊の被害が多発していて、その任務に一人で行かされた。此処は八十八橋の任務でもう懲り懲りだというのに。
スマホで時間を確認する。低級呪霊相手だったから、思ったよりもすぐ終わった。補助監督の人が迎えに来てくれる時間まで、あと一、二時間はある。電話をしようと思ったけど、その補助監督さんは他に仕事があるから電話に出られないと言っていたのを思い出してやめた。近くで時間潰しをするしかないか。
この近くに何かあったっけ。虎杖と釘崎が一緒なら暇しないのに。
適当に座れる場所探して休むか、と決めたとき、誰かが俺の肩を叩いた。
「……伏黒、だよ、ね?」
聞き覚えのある声だった。凛とした声。そうだ、中三の時のクラスメイトだ。
人と関わるのが得意な方ではない俺に、よく話しかけてくれた、明るい
やつだった。
A、とクラスメイトの名を呼びながら振り返る。
そこにはやっぱりクラスメイト__Aがいた。たった数ヶ月会わなかっただけなのにすごく垢抜けた気がする。
「やっぱり!久しぶりだね」
「A。久しぶり」
でも無邪気な笑顔は中学の頃から変わってなくて、何故か安心した。
「学校帰り?高校、ここから近いの?」
「いや、学校はここからは遠い。用事があるから来たんだ」
そう答えれば、そうなんだ、と相槌が返ってきた。そっちから聞いてきたのに、と言おうと思ったが用事の内容などを聞かれたら困るからやめた。
「Aは?」
「私?久しぶりに、母校に行こうかなって」
「へえ」
「こっちの道あんまり通らないからさ。卒業してから全く顔出してないし」
そういえば、俺も卒業以来、自分の意思で母校に訪問したことがない。八十八橋の件では聞き取り調査を目的として虎杖達と行っただけだし。
「ねえ、伏黒も一緒に行こうよ」
「は?」
「あ、この後何もなかったら、だけど」
「いや、別にこの後は暇だけど……」
「お!じゃあ一緒に行こうよ!ねっ」
お願いします!と顔の前で手を合わせるA。別に行きたくはなかった。けど、断ったとして、この後することもないし、すぐには高専の方に帰れそうにもない。
「いいよ」と了承すれば、Aは嬉しそうに笑った。「じゃあ行こう!」
まあいいか。
Aが嬉しそうに笑う姿を見ていると、そう思うようになった。
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作者名:ももちゃわ | 作成日時:2021年4月14日 21時