32 初めまして ページ32
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初めてだった。
こんなふうに声を荒らげて喧嘩したのは。
初めてだった。
分かり合うために互いに踏み込んだのは。
初めてなことばかりだ。
いつだって私たちは、慎重になるばかりに。
きっとそれが、私たちふたりの悪いとこで、
こうなってしまった、私たちふたりの原因。
笑いすぎたからか、それとも別の理由か、目尻に溜まった涙を掬って、呼吸を落ち着かせて。
真っ直ぐに彼に届けた言葉はごくありふれた、まるで初対面の相手に向けたような言葉。
「もっと話そうよ」
私たちには足りていなかったんだ、それが。
嬉しいことも
楽しいことも
嫌なことも
苦しいことも
嬉しい、と
楽しい、と
嫌だ、と
苦しい、と
思ったことを、思ったままに伝えてれば確実にこうはならなかった。
あまりにも簡単なことで、きっと誰かに笑われてしまうようなことだけれど、大人になるにつれこういう簡単なことほど難しく感じてしまう。
余計な感情や状況が絡まって、芯にある真っ直ぐなそれらを取り出せなくなってしまう。
取り繕ったっていいと思う。
何かを我慢して笑っているのは凄いことだと思う。
でもそれと同じくらい、さらけ出すってのは勇気のいる凄いことだと思うの。
たまにはいいじゃないか。
カッコ悪くたって、我儘言ったって。
大切な人の隣にいれなくなるより、よっぽどいい。
夕日が沈んだ。
空の炎は消えて、じわじわと世界の淵から藍色に染まっていく。輪郭がぼんやり曖昧になる。
「……もしかして、笑ってる?」
「笑ってへんよ」
「いや、よく見えないけど絶対馬鹿にした顔してる」
「してへんって。せやけどそうやなぁ、もっと話そうってのは……くくっ、小学生かっ……」
「やっぱり笑ってる!!」
怒りを込め、彼の胸板目指して伸ばした拳は簡単に受け止められて、反対の手は私の腰に。
抱き寄せられて慌てる暇なんてないままに絡んだ視線。
黄昏時よりも暗く、けれどあの日より近く。
そして彼の瞳は、愛しいと言っていた。
「……なんで体引くんや、空気読めや」
「キスより先に言うことあるでしょ」
「なんや随分我儘になりよって」
「もっと話さなきゃ、自分が思ってることもして欲しいことも」
「小学生は素直でええなー」
「あのねぇ!」
「はいはい黙っとき。……もう離さへんから覚悟しーや」
だって、今の私たちにはぴったりでしょう?
こんな彼は知らない、初めましてだもの。
fin.
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青雲 - 読んで美しいと思いました。らるこさんの作品本当に好きです!これからも無理しない程度に頑張ってください! (2018年9月14日 16時) (レス) id: 38830a0efa (このIDを非表示/違反報告)
つきら - らるこさんの作品すごいすき (2018年8月18日 2時) (レス) id: 2b230d4b3a (このIDを非表示/違反報告)
鈕(プロフ) - らるちゃん完結おめでとうございます!!だいすきならるちゃんの侑くんのお話が読めて本当に胸がいっぱいです( ; ; )このお話がだいすきです、素敵なお話をありがとう! (2018年4月29日 23時) (レス) id: 59e93a82ae (このIDを非表示/違反報告)
京ちゃん。(プロフ) - これ読んで久しぶりに恋しちゃいました!久しぶりにときめいちゃいました!!!ほんとに素敵でした! (2018年4月29日 20時) (レス) id: 706e95c0fd (このIDを非表示/違反報告)
らるこ(プロフ) - ぷちしゅー。さん» ぷちしゅー。さん!お久しぶりです(*¨*)そして御返事遅くなってしまってすみません……!こちらこそまた読んでいただけてることとても嬉しく思います.*・゚引き続き楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いします(*¨*) (2017年10月11日 15時) (レス) id: 0508647bd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らるこ | 作成日時:2017年8月19日 20時