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31 口論 ページ31

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思い返せば、私は知ってる。
突然に、今までの日々が嘘だったんじゃないかと錯覚する、あのぞわりとした恐怖。
大切な友人を失いかけたときに嫌という程知ったその感覚。

それを彼にも与えてしまったのかもしれないと考えると、自分の行いがどれほど身勝手なものだったのか実感した。

ごめんなさい、そう伝えようと口を開けば、両頬をつままれて餅のように横に伸びていく。いたたた。
太ったかもしれないと今朝、鏡の前で思ったばかりだというのにひどい仕打ちだ。


「なにひゅんの」

「お前、今謝ろうとしたやろ」

「ほーらけど。らってわたしもみあくんに」

「何言うてんのか分からんわ」

「はなひてよ」


少しばかりヒリヒリと痛む頬を擦りながら彼を睨めば、けたけたと笑う。やけに乾いた笑い声。
つかめない、と思っていた彼だけど、不思議と今は何を思っているのか何となくだけどわかるような気がした。


「全部俺が悪かったんや、お前が謝る必要あらへん」


ほら、やっぱり。
なんだろう、ここまでくると腹が立ってきた。
俺が俺がって、そればかり。
これは宮くんだけの話じゃないのに。


「なにそれ」

「そうやろ、俺があんなことせんかったら仲良しこよしでいられたんや」

「宮くんがああなった原因は私じゃん」

「ちゃうわ!勝手に勘違いしたんや!俺が!」

「私だって勝手に判断して別れようって言ったもん!」


飛び交う口論。
先ほどまで気にしていたくせに声のボリュームは次第に大きくなって、コンビニ帰りであろうカップルが遠目で私たちを見て笑っている。知ったことか。

全てを言い切った頃には2人とも肩で息をしていて、あまりの馬鹿らしさに顔を見合わせて笑ってしまった。


何かが晴れたような笑い声は、もう誰も聞いていなかった。

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青雲 - 読んで美しいと思いました。らるこさんの作品本当に好きです!これからも無理しない程度に頑張ってください! (2018年9月14日 16時) (レス) id: 38830a0efa (このIDを非表示/違反報告)
つきら - らるこさんの作品すごいすき (2018年8月18日 2時) (レス) id: 2b230d4b3a (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - らるちゃん完結おめでとうございます!!だいすきならるちゃんの侑くんのお話が読めて本当に胸がいっぱいです( ; ; )このお話がだいすきです、素敵なお話をありがとう! (2018年4月29日 23時) (レス) id: 59e93a82ae (このIDを非表示/違反報告)
京ちゃん。(プロフ) - これ読んで久しぶりに恋しちゃいました!久しぶりにときめいちゃいました!!!ほんとに素敵でした! (2018年4月29日 20時) (レス) id: 706e95c0fd (このIDを非表示/違反報告)
らるこ(プロフ) - ぷちしゅー。さん» ぷちしゅー。さん!お久しぶりです(*¨*)そして御返事遅くなってしまってすみません……!こちらこそまた読んでいただけてることとても嬉しく思います.*・゚引き続き楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いします(*¨*) (2017年10月11日 15時) (レス) id: 0508647bd8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:らるこ | 作成日時:2017年8月19日 20時

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