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14 取捨 ページ14

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「そう?気づかなかった」


すぐに表情を戻した彼女は「どこで移ったんだろうね」と少し目を伏せた。何気なく発せられたその言葉の裏で巡る彼女の記憶を少しだけ想像して、胸が痛んだ。

ほら、この時点でもうおかしいんだって。
私が胸を痛める理由なんてないのに。
彼女から宮くんの匂いがしようと気に止める必要なんてこれっぽっちもないのに。


「ねぇ、杏子」
「なぁに」


でももし、



「私、宮くんのこと好きみたい」



もし私の中にその感情があるならば、すべて筋が通る。


いつだったか、彼のことが好きなのかという杏子の問いに「友達だよ」と返したくせに。
なんて今更なんだと思われるだろう。

そうなんだよね、今更なんだよね。
きっと、随分と前から好きだったくせに
今更それに気づいちゃったんだよね。

口を結んだままの杏子の瞳に今の私はどう映っているだろう。
嘘をついて欺いて、挙句「私も好き」なんて随分と都合が良くてずるい奴、そう見えてるだろうか。

ねぇ、最低ついでに、最後にもう一つだけ言わせて。


「宮くんに伝えるつもりはないの。ただ杏子に嘘ついてるのが嫌で、前みたいに話したくて……っ、ごめんなさい、嫌いにならないで……っ」


みっともなく言い訳を並べて、最後に縋った。
怖かったんだ。

一人でいることなんてそんなに苦じゃなかったさ、そりゃ寂しいとは思ったけれど。
そんなことよりも
毎日のように合わせていたはずの目が合わなくなって彼女を追いかけるだけになって
毎日のように交わしていたはずの言葉が届かなくなって口をつぐむようになって

まるで今までの思い出全部が嘘だったと言われているような毎日が怖かった。

写真のフォルダ、ハートの印をつけたお気に入りの欄にふたりの写真があることを一体私は何度確認して、何度安堵したことか。


ぽたり、頬が濡れたからついに零れてしまったのかと驚いた。
こみ上げるものを抑えて、下唇を噛みしめながら見つめた彼女の奥は灰色の空が広がっていた。

雨だった。


慌てて校舎に戻っていくクラスメイトの後をワンテンポ遅れて追った。
濡れちゃうよ、そう手を引かれて久々に感じた彼女の体温は悲しいくらいに温かかった。


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青雲 - 読んで美しいと思いました。らるこさんの作品本当に好きです!これからも無理しない程度に頑張ってください! (2018年9月14日 16時) (レス) id: 38830a0efa (このIDを非表示/違反報告)
つきら - らるこさんの作品すごいすき (2018年8月18日 2時) (レス) id: 2b230d4b3a (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - らるちゃん完結おめでとうございます!!だいすきならるちゃんの侑くんのお話が読めて本当に胸がいっぱいです( ; ; )このお話がだいすきです、素敵なお話をありがとう! (2018年4月29日 23時) (レス) id: 59e93a82ae (このIDを非表示/違反報告)
京ちゃん。(プロフ) - これ読んで久しぶりに恋しちゃいました!久しぶりにときめいちゃいました!!!ほんとに素敵でした! (2018年4月29日 20時) (レス) id: 706e95c0fd (このIDを非表示/違反報告)
らるこ(プロフ) - ぷちしゅー。さん» ぷちしゅー。さん!お久しぶりです(*¨*)そして御返事遅くなってしまってすみません……!こちらこそまた読んでいただけてることとても嬉しく思います.*・゚引き続き楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いします(*¨*) (2017年10月11日 15時) (レス) id: 0508647bd8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:らるこ | 作成日時:2017年8月19日 20時

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