12 ゼロ距離の記憶 ページ12
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みんな決まって「どうしたの」と心配そうな顔をして私を覗き込んだ。
そんなに何かあったとわかってしまうくらい私たちはいつも一緒にいたのだろうか。
きっといたんだろうな。
変に言い訳してもあれかと、はたまた単にいい言い訳が思いつかなかったからか、「喧嘩しちゃった」と笑ってみせた。
「大したことないよ」
「大丈夫だから」
「心配してくれてありがとね」
この三拍子、淡々と口にして、せっかく差し伸べてくれた手をやんわりと払うことに少しばかり胸が痛んだけれど、どうしたらいいか分からないのだから仕方ない。
悩んだとき、決まって私は杏子に声をかけた。
一番に『助けて』が言えた。
ああ、ほんとだ。
ずっと一緒にいたね。
なんだか無償に寂しくなって、“独り”という言いようもないあのじわじわ蝕まれる感覚に怖くなった。
鼻の奥がつんとして、瞳に薄く膜が張ったのがわかった。
それは気を抜けば溢れてしまいそうなほど脆いもので、机の下で強く強く手の甲を抓って気を紛らわした。大して紛れることはなかったけれど、幾分マシだ。
まるで綱渡りみたいに。
ギリギリのところを、あと少しのところを、
おぼつかない足取りで歩く私を
落とすものか
留めるものか
「A?」
「……あ、」
「どないしたん、そないな顔して」
やめて欲しい、小さい子供をあやすみたいな優しい声色。ちょっぴり甘くて、おいでおいでって言われてるみたいな、そんな声。
そないな顔って、宮くんに言われたくないよ。
らしくない、ひと目でわかる“心配”の顔。
「腹でも痛いんか?」
「……っ、ちがっ」
「じゃあなんでそないな……」
「宮くん」
危なかったと、思わず心の中で言葉にした。
溢れさせるところだった、もう疲れてしまったと、考えるのが嫌だと、彼に泣きつくところだった。
ぴりっとした雰囲気を肌で感じながら、そっと開きかけた口を閉じた。
最悪で最高のタイミングで来た彼女には感謝しなければ。
「なんや、笠倉」
「ちょっと話がしたくて……お取り込み中だったかな」
小首を傾げた杏の髪がさらりと彼女の肩をすべる。
手入れの行き届いた、指通り滑らかなその髪はいつもいい匂いがした。
「全然!おじゃま虫はお暇しますよっと」
呼び止めようとする宮くんの声を聞こえないふりして横切った彼女からは、ほんのり宮くんの匂いがした。
いつの日か、桜の木の下で知った、あの匂い。
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青雲 - 読んで美しいと思いました。らるこさんの作品本当に好きです!これからも無理しない程度に頑張ってください! (2018年9月14日 16時) (レス) id: 38830a0efa (このIDを非表示/違反報告)
つきら - らるこさんの作品すごいすき (2018年8月18日 2時) (レス) id: 2b230d4b3a (このIDを非表示/違反報告)
鈕(プロフ) - らるちゃん完結おめでとうございます!!だいすきならるちゃんの侑くんのお話が読めて本当に胸がいっぱいです( ; ; )このお話がだいすきです、素敵なお話をありがとう! (2018年4月29日 23時) (レス) id: 59e93a82ae (このIDを非表示/違反報告)
京ちゃん。(プロフ) - これ読んで久しぶりに恋しちゃいました!久しぶりにときめいちゃいました!!!ほんとに素敵でした! (2018年4月29日 20時) (レス) id: 706e95c0fd (このIDを非表示/違反報告)
らるこ(プロフ) - ぷちしゅー。さん» ぷちしゅー。さん!お久しぶりです(*¨*)そして御返事遅くなってしまってすみません……!こちらこそまた読んでいただけてることとても嬉しく思います.*・゚引き続き楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いします(*¨*) (2017年10月11日 15時) (レス) id: 0508647bd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らるこ | 作成日時:2017年8月19日 20時