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11 理科室の金縛り ページ11

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待ってほしいと伝えるよりも先に、教科書を抱えた杏子が教室から出ていくものだから、彼女達に断りを入れ慌てて追いかけた。

そんなに急ぐほどの時間ではないことを、この誰もいない教室が物語っている。
人体模型やら変な形をした容器に囲まれたこの空間、やけに冷たい気がする、私が理科を嫌いだからかもしれないけれど。

静かに席についた彼女に対して、立ち尽くしたままの私はどうにか彼女の感情を読み取ろうとするも、俯いているから表情すらもわからない。

静かに、息を吸う音が聞こえた。


「覚えてないんでしょ?」

「……え?」

「もう嫌だって、忘れたのはAでしょ?」

「……ごめん、なんのこと言ってるのか」

「なら、知る必要なんてないじゃん、思い出す必要なんてないじゃん」


杏子が顔をあげた。
それでもやっぱり、わからなかった。
表情も、感情も、彼女が口にした言葉の意味も。

彼女の名前を呼んで、歩み寄ろうとしても
彼女は目すら合わせてくれなくて。

青だとか、赤だとか、そういう色の類の感情が渦巻いた瞳に私が映ったのは、「そっか」、そう静かに、まるで吐き落とすように彼女がつぶやいた後だった。



「近寄らないで、宮くんに」


ひと呼吸置いて、はっきりと、好きなの、と。



真っ直ぐに見つめられて、体は動かなくて、まるで金縛りのよう。
授業が始まる三分前、ぞろぞろと教室にきたクラスメイト達の賑やかな声でそれは解けて。


解けて、逃げるように自分の席に着いた。



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青雲 - 読んで美しいと思いました。らるこさんの作品本当に好きです!これからも無理しない程度に頑張ってください! (2018年9月14日 16時) (レス) id: 38830a0efa (このIDを非表示/違反報告)
つきら - らるこさんの作品すごいすき (2018年8月18日 2時) (レス) id: 2b230d4b3a (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - らるちゃん完結おめでとうございます!!だいすきならるちゃんの侑くんのお話が読めて本当に胸がいっぱいです( ; ; )このお話がだいすきです、素敵なお話をありがとう! (2018年4月29日 23時) (レス) id: 59e93a82ae (このIDを非表示/違反報告)
京ちゃん。(プロフ) - これ読んで久しぶりに恋しちゃいました!久しぶりにときめいちゃいました!!!ほんとに素敵でした! (2018年4月29日 20時) (レス) id: 706e95c0fd (このIDを非表示/違反報告)
らるこ(プロフ) - ぷちしゅー。さん» ぷちしゅー。さん!お久しぶりです(*¨*)そして御返事遅くなってしまってすみません……!こちらこそまた読んでいただけてることとても嬉しく思います.*・゚引き続き楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いします(*¨*) (2017年10月11日 15時) (レス) id: 0508647bd8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:らるこ | 作成日時:2017年8月19日 20時

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