You.01 ページ1
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「徹」
ざわざわしたキャンパス内を歩く、その大きな背中に近づく。
こんな小さな私の声にもちゃんと気づいて、隣に並んだ私の髪をそっと撫でてくれる。
その優しさにほっとして、きゅんとして、騒音が遠のいていくのがわかった。
私のなかには今、徹が溢れている。
「その服かわいーじゃん」
「徹のそのカーディガンは初めて見た。似合うね」
お互いにお互いを褒めあって、くすりと笑みをこぼす。こんなのは日常茶飯事だけれど、やっぱり、いつもいつもくすぐったく感じてしまう。
「徹、今日も_」
「うん、部活。ごめん」
「なんで謝るの、選手なんだから当たり前でしょ?今更そんなことで、寂しくなったりしないよ」
「Aはほんと、かっこいいね」
申し訳なさそうに笑う徹がそっと私の手をとる。寂しいのは実は徹の方なんだと、私はわかっている。これは、幼い子供が母親にしがみつくのと同じ。寂しいと、離れたくないと、そういう感情の表現なのだ。
「徹」
「ん?」
「今日は寒いから、クラムチャウダー作っておくね」
「えー、Aが待っててくれればそれでいいのに…」
「疲れて帰ってくる徹に何かしてあげたいっていうのは、彼女として当然の気持ちだと思いますが?」
「…じゃあ、起きて待っててね」
「当たり前、」
「お風呂は一緒にはいるから、先に入っちゃダメだよ」
「…う、」
耳元で低く小さく囁かれる言葉に、体温が上昇する。またそうやって、いきなり人を変えて。
いい加減その色気をどうにかしてください、心臓に悪いから。
わかった?と言って意地悪く笑う彼に、私はうん、としか答えようがなかった。
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radio-co.(プロフ) - 励ましのコメントありがとうございます!文庫化なんて畏れ多いです汗 言葉を大事にしすぎて一言一言が重苦しくなるのが欠点でして……。もう少しラフに書けるといいなー書きたいなーと思っています笑 これからも是非応援宜しくお願いします(/\)\(^o^)/ (2017年12月29日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - どっどっどうもありがとうございます!(#^.^#) 文章力とストーリーの両方を誉めて頂けるなんて、これほど嬉しいことはありません!あやせさんのこの言葉を励みに更新頑張っていきますので、これからも温かく見守ってくださいね。 (2017年11月29日 17時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
あやせ(プロフ) - あっあっあの、好きです(語彙力) 引き込まれるストーリーと綺麗で丁寧な文章表現、本当にすごいなと思いました。これからも応援させていただきます…!! 更新楽しみにしてます〜(*^^*) (2017年11月22日 16時) (レス) id: a236a20ef8 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - ユラさん» 大変な誉め言葉をありがとうございます!汗 更新が不定期で申し訳ありません。ここから皆の恋愛が動いていきますので、これからもどうぞよろしくお願いしますね。 (2017年10月2日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
ユラ(プロフ) - 凄く大人っぽいのに読みやすくて、あっという間に夢中でした!やばいこれ超良作じゃん!とか言って一人で騒いでます笑。及川くん達のこれからがとても気になるので、更新、お願いします!! (2017年9月26日 0時) (レス) id: 9a45404af6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:phobia | 作成日時:2017年2月18日 10時