PARACAGE 4th【ars】 (ページ4)

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109.世界から消える。ページ4

雅紀くんは暫く黙って、宙を見詰めてる。

沈黙。
どうしよう。訊かれたくない事だったのかもしれない。

「あの...雅紀く...」
「楽しいから、かな」
「...楽しい...」
「うん。楽しくない？同じ家に友達も一緒に住んでるって。ずっと遊んでるみたいで」
「...うん！楽しい！」

だよね、って雅紀くんが笑ったから安心する。

「俺...一人になりたくないんだよね」

笑ったまま、彼が呟いた。
窓は近い訳じゃ無いから、ちょっと小さな声だともう聞こえにくくなる。

だから、聞き間違えたかな？とも思ったけど

「一人になりたくない」

彼は、もう一度ハッキリと言った。

「一人だと、考えなくても良い事まで考えちゃったりしない？」
「...うん、時々あるかも...」
「でも、誰かと一緒に居たら考えなくって済むでしょ？」
「......うん」

何だか、とても嫌な予感がした。

あんまり、聞きたくない事を彼が話してる気がした。

「思い出したくない事とか、さ」

あぁ...と、心が小さく悲鳴を上げた。

「忘れたいのに、忘れらんないコトとか...さぁ」

悲鳴を上げた心が、キュウ...っと絞めつけられる。

だって、その横顔は......
伏せた睫毛がゆらりと揺れて、彼はどこか遠くを見てる。

「誰かと居れば、その時は全部忘れられるから」
「...だから...女の子とも...？」

自分でも驚く位、その言葉は私の口からスルっと零れ出た。
雅紀くんが、アハ、って自嘲する。

「抱き合ってれば、頭ん中、真っ白になるから」
「......」
「サイテーだけど」
「......」
「そん時は、ラクになるにはそれしか方法が無いって思っちゃうの」

「ホント、サイテーだけど」って雅紀くんがまた言うから、何だか苦しくなる。

「でももう、うちには連れて来ないから安心して？」
「あ...それは、あの...」
「俺、ちょっとみんなに甘え過ぎてたなーって反省したし！」
「......」
「優しいでしょ？みんな」
「...うん」

雅紀くんが、小さく何度か頷いた。

「...雅紀くんも、優しいです」

私が言うと、彼は「優しくないよ」って右頬を上げる。

「......」
「ほら、人のビール勝手に飲んじゃうし！」
「でもきっと、雅紀くんは明日ちゃんと買って返すはずです」
「それは優しいんじゃなくって、礼儀だよ」
「...でも...」
「もう寝なきゃね！ごめんね、引き止めて」

おやすみ、って雅紀くんが窓の中に姿を消した。

何故だか...

彼がこの世界から消えたみたいで、悲しかった。