PARACAGE 4th【ars】 (ページ21)

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126.悪魔のお話。ページ21

そのデザイナーさんを男性だと思って話を聞いてた自分を、殴りたくなった。
能天気に浮かれてた自分に、本当に腹が立つ。

「すいませーん」

煙草を消しながら雅紀くんが手を挙げ、店員さんを呼んだ。

「ビールのお代わりと、Aちゃんは？」
「ううん...」

きっともう、何を飲んでも気持ち良くは酔えない。

「じゃあ、お水貰おっか」

お水も下さい、って店員さんに話す雅紀くんの穏やかな声。

そっと雅紀くんを見ると、伏せた目の下に睫毛の影が出来てる。
表情が読み取れないけど、口元はギュっと一文字に結ばれてた。

「雅紀くん...」
「んー？」

私に視線を向けた彼は、もう目尻に優しげな皺を寄せて口角も上がってる。

「何か、変なコト訊いちゃってごめんなさい...」
「フフッ、全然良いよ。本当に言いたくない事は喋んないし」
「......」
「実は俺、心の壁けっこー高いんだよ？他人にあんまり自分の話とかしたくないし」
「...そうなの...？」
「うん。でもAちゃんなら良いやって思ったの」

嬉しいのに、悲しい。
悲しいのに、嬉しい。

「前にも話した、俺の『忘れたいのに忘れられないコト』がコレ」
「......」
「忘れられたら、テレビも出れるのにね！」
「......」
「もっと稼げるし、もっとモテるのになぁ！」

雅紀くんが笑う。
でも、ずっと彼を見て来た私の目を舐めないで欲しい。

雅紀くんがちゃんと笑えてない事くらい、すぐに分かる。

「でも俺、咲で居る限り絶対に忘れらんないの」
「...どうして？」
「だって、その人がくれたんだもん」
「......」
「『咲』って名前」

思い出さない方が良かった事を、一瞬で思い出してしまって軽く眩暈。

芸名の話をした時、『咲』って漢字をあてたのは同じ会社のデザイナーさんだったと彼は言っていた。

「だから仕事すると、嫌でも思い出す。咲って呼ばれる度に思い出す」
「......」
「一体何の呪いなの、って思うよねー」

やっぱり雅紀くんは笑うけど、目が全く笑ってないから余計に私にとってはキツい。

「酷いよね、こんな縛り方ってある？勝手に居なくなったくせに、俺には自分の痕跡おもいっきり残してくとか悪魔だよね」
「...ねぇ、無理に笑わなくて良いよ...」
「......『咲』って、笑うって意味もあるって言ったでしょ？」
「でも私が一緒に居るのは、咲くんじゃなくって雅紀くんだよ」

私を見て「そうだった」って言った彼の目が、困ったように、でもやっと笑った。