PARACAGE 4th【ars】 (ページ20)

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125.約束のワケ。ページ20

お互い、三杯ずつ飲んで。
気分も良くなって来て。

少し心配してたけど店内で雅紀くんに気付いてる人は居ないみたいだってコトも気付いて、彼の言う通りファッションに興味が無かったら雑誌モデルの事なんて知らないのかもなって思った。

「雅紀くんがテレビに出ない理由って、あんまり顔バレしたくないから？」
「んー、まぁそれもあるけどね」

頬杖をついて、彼が右頬をキュっと上げる。

「これ以上忙しくなるのは嫌だ...とか？」
「アハッ！仕事で忙しいのは大歓迎だよ、俺」
「偉いなぁ...私、出来れば遊んで暮らしたい」
「ニノちゃんと同じコト言ってる」
「ニノくん、お仕事好きそうなのに」
「好きってだけではね」

まぁ確かに...。
私もインテリアや雑貨は好きだけど、仕事になるとしんどい部分も多い。

「じゃあ、何で...？とか訊いても良い、ですか？」

酔った勢いって訳じゃ無いけど、普段ここまでちゃんと話した事は無い。
せっかくだから、雅紀くんの事をもっと知りたい。

彼は煙草を出して、唇に挟む。
煙草の先に火を点け、一息吐き出してから「約束しちゃったの」って呟いた。

「約束？」
「うん。俺が初めてテレビ出る時には、アナタの作った服を着て出るからーって」
「作る...って事は、デザイナーさんとの約束？」
「そう。まぁ、その人には映画やドラマだったら衣装があるから無理だって言われたけど、俺としては制作発表があるでしょって」

もう一度、雅紀くんが煙草を咥える。
煙を吐き出すまでの一連の流れを眺めて、言葉を待つ。

「昔、同じ会社で働いてたデザイナーでいつかは独立して自分のブランドを立ち上げるって言ってたから」
「うん」
「俺もモデルで頑張るから、アナタも頑張ってってゆー約束だったの」

雅紀くんの目が、私を通り越して、どこか遠くを見てるように感じた。

それは、いつか夜空の下で見たあの横顔と同じ。

「その人、俺がモデル始めてちょっとしたら会社辞めたんだよ」
「あ、じゃあブランド立ち上げたの？」
「ううん。もっとしっかり学びたいって、一人でロンドン行っちゃった」

長めの前髪を指で梳きながら、雅紀くんはフっと笑った。

「頑張ってとは言ったけど、俺から離れろとは言ってないのにね」

お酒でフワフワしてた頭は、一気に酔いが冷めたのか酔いが回ったのか、クラクラに変わった。

数分前に戻りたい。
テレビに出ない理由なんて、別に訊かなくて良かったのに。

時間を巻き戻したい。