PARACAGE 4th【ars】 (ページ14)

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119.表情。ページ14

梅雨に入った。

みんな洗濯のタイミングが分からないのか、翌日が晴れ予報の日なんかは夜から洗濯合戦が始まる。
誰から洗濯機を使うかはあみだくじで決めるんだけど、何故かいっつも智くんが一番を引き当てる。
「イカサマだ！」ってニノくんは言うけど、「おれ、最後に選んでるでしょ」って言い返されて黙り込む。いつもの流れ。

その日は晴れ予報で、庭にはハタハタと洗濯物が靡いていた。
私の洗濯物も、ベランダに干されてる。
最近雅紀くんがお気に入りだから「みんな使って！」って言って洗濯機横の棚に置いてある柔軟剤を使った洗濯物。
自分のTシャツに顔を埋めて思いっきり匂いを嗅いだ事は、誰にも言えない。

梅雨時に晴れてると、やっぱりお客様もたくさん来店するから仕事も忙しくなる。
接客して、納品して、補充して、接客して。
忙しい日は、頬の筋肉が痛くなる。口角をずーっと上げてるから。

今日ももうすぐ終わる...と時計を見始めた17時半。
でも残り30分が長いんだ、これが。

お客様がグチャグチャにして行ってしまったタオルのコーナーを整理しながら、欠伸を噛み殺した時。

「すみません」と、後ろから声を掛けられた。

「はい！」

慌てて笑顔で振り返る。
そこに立ってる人を見て、ヒッ...と喉が変な音を立てた。

「来ちゃった」
「...ビ...ックリした...」
「近くで撮影だったんだけど、早く終わったからさー」

黒縁眼鏡の奥で、彼の目がキュウっと細くなる。

「雅紀くん、こんな所に来て大丈夫なの！？」

小声でヒソヒソ言ったら、聴こえなかったらしく「え？」って雅紀くんは腰を折って私の口元に耳を寄せた。
近い...っ！！

「...こんな所に来て、騒がれでもしたら...」
「アハッ、大丈夫だよ。俺、全然気付かれないよ？」

嘘でしょー！？
すっごい目立つよ！？

「俺のコト知ってる人なんてファッションに興味ある人だけで、普通の人にとってはその辺に居るお兄ちゃんだから」
「そんなモンなの...？」
「うん、テレビにも出てないしね」
「そっか...でも、このお店ファッションに興味ある人の方が多い気が...」
「あー、別に声掛けられるのは嫌じゃないし迷惑なコトされたらちゃんと言ってるから大丈夫」
「迷惑な事？」

雅紀くんが「盗撮とか」ってちょっと嫌そうな顔で言う。

「それは嫌だね...」
「そうだよ、キメ顔すらさせて貰えないなんてモデルとして侮辱されてる気分」

さっきまで眉間に皺寄せてたのに、彼はもう笑ってる。