PARACAGE 3rd【ars】 (ページ8)

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78.赤い花。ページ8

店員さんがヒロシ君のビールを運んで来て、彼はそれを「カンパーイ！」と勝手に私達のジョッキにコンコンとぶつけてグビグビ飲んだ。

「ちょっと、ヒロシ！飲んでないで詳しく教えなさい！」

アカリがヒロシ君の肩をグラグラ揺らすもんだから、ジョッキの中のビールがチャポっと跳ねて彼の鼻に飛んだ。

「もー、欲しがりさんやなぁ」
「アンタ、本当に面倒臭いね...」

またウンザリって顔して、アカリが私を見た。
いつ会ってもこの二人はこんな感じだ。微笑ましい。

「昨日うちのレセプションパーティーあってんけど、俺違う仕事入ってて行かれへんかってん」
「それで？」
「でもパーティーの後の打ち上げやったら間に合うんちゃう？って思って連絡したら、来いって言われて。ほら、俺らもよく行くクラブ。J'S BAR」
「えー！？あそこに咲くん居たの！？行けば良かったー！」

アカリが本気で悔しそうにテーブルに顔を突っ伏した。
ヒロシ君が「よしよし」ってその頭を撫でてる。

「そんで、初めて咲に会ってんけど...」

「けど？」と、アカリが顔を上げた。

「まぁ格好良いから大人っぽく見えるけど、めっちゃ笑ってたしどっちかと言えば陽気な印象やったで？」
「咲くんが？陽気？」
「うん。むしろ、めちゃくちゃ親しみやすい感じやった」
「親しみ...って、まさかヒロシ喋ったの！？」
「フッフッフ」

片方の口角を上げて笑ったヒロシ君が、スマホの画面を「ジャーン！」ってアカリに見せる。

「撮って貰った！」
「嘘でしょ！？ズルイ！」
「お仕事の特権、最大限に使わせて貰ったわ！」
「良いなぁ...ってゆーか、咲くん超格好良い！やっぱり笑顔も格好良い！」

そう言って、アカリはヒロシ君からスマホを取り上げて私の方に向けた。

「ねぇ、A！咲くんのオフショット！」

そこにはヒロシ君と一緒に写ってる雅紀くんの姿。

小さな画面の中の雅紀くんは、ヒロシくんと向かい合うように立っていて二人とも顔だけをこっちに向けていた。
背景は、確かに私もアカリも行ったことのあるクラブだ。
彼らの周りにはたくさん人が居て、雅紀くんはいつも吸ってる煙草の箱を持っている。

「咲くん、この銘柄吸ってるんだー」

アカリが呟く。

「そう、だね」

私も、呟く。

綺麗に笑う雅紀くんは、白いシャツを着ていて

その肩の下辺りに、刺繍された赤い花が少しだけ見えていた。