PARACAGE 3rd【ars】 (ページ7)

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77.昨日。ページ7

「なぁ、邪魔せぇへんから一杯だけ飲んで良い？」
「えー...女同士で楽しんでるのに...」
「邪魔せぇへんって言ってるやん！な？」
「...A、良い？」

アカリがウンザリしたような表情で訊いて来るから、可笑しくて「全然良いよ」って笑って応えた。

ヒロシ君が「やったー！」って喜びながら、アカリの隣に座る。

「奢らないからね！ちゃんと自分の分は払って帰ってよ？」
「そんなん分かってるやんかー、先払いしとこか？」

そう言いながら、彼はテーブルに500円玉を置いた。
それと同時に「はい、Aっち。これあげる！」ってブックレットを鞄から出す。

「男から見ても、めっちゃかっこえぇわ」

パラパラっとページを捲ってから、ヒロシ君はそれを私に差し出した。

「あ...ありがと」

表紙には白地にブランド名が小さく入ってるだけ。
その表紙を捲ると、すぐに咲くんが現れた。

モノクロの横顔。
前髪で目元が隠れてる。
唇に添えられた指にそのブランドの指輪と、腕にバングル。

「俺にもそんな色気が欲しい」
「ヒロシには無理でしょ、咲くんにはなれないよ」
「何で無理やと思うん！」
「だって雰囲気が違い過ぎるでしょ！咲くんはヒロシみたいにうるさくないよ、絶対！」

向かい側の席で二人がワーワー言ってるのを聴きながら、ページを捲る。

次のページには新作の服で身を包んだ咲くんの全身。
ツンと上げられた顎、気怠そうに見下ろす視線。

本人はモデルにしては背が低いなんて言ってたけど、そんなの全然気にならない。

「Aもそう思うでしょ？」
「...えっ？何が？」
「アハッ、咲くんに夢中だったね。ごめんごめん」
「あっ、ううん！...えっと、何？」

パタンとブックレットを閉じて、二人の方を見る。

「咲くん、絶対にうるさい人じゃないと思わない？」
「え...」
「クールって言うか、大人って言うか」
「あー...」

ちょっと前までは私もそう思ってた。
クールで大人で、暗い訳じゃ無いけど口数はそんなに多くないんじゃないかな？なんて。

でも本当は明るいし、よく喋るし、よく笑う。
少年ぽいし、クール...だとは思わない。

「そんなコト無いで」

私が何か言う前にそう言ったのは、ヒロシ君だった。

「何でヒロシが分かんの？」
「だって俺、仕事で会ったもん」
「うそ！そんなの聞いてない！いつ！？」
「急に決まってんもん。昨日、昨日」

昨日...

私が寝る時間まで帰って来なかった雅紀くんが、女の人を連れて帰って来た昨日。