PARACAGE 3rd【ars】 (ページ35)

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105.お惣菜。ページ35

出勤する時、玄関にあのパンプスを視界に入れてしまった自分に自分で文句を言いながら家を出た。

何でわざわざ嫌な気分になるもんを見るかな、私バカなの？
見ちゃったら現実受け入れなきゃいけなくなるでしょ。
どうすんの、今日帰った時にもあの靴あったら。

どうすんの...本当に、あの靴がまだあったら...。

空は昨日の雨とは打って変わって、よく晴れてる。
桜香寺で今度は私が翔さんに「行って来ます」を言って、いつもの駅までの道。

どうか、どうか、せめて。

私が帰る頃には、あの靴が無くなってますように。

・

その願いは、叶った。
帰宅した私は玄関であのパンプスを見ずに済んだ。

ただ、雅紀くんも居なかったけど。

家に居たのは、智くんだけ。
私が玄関に入ったら、階段を下りて来た。

「おかえり、Aちゃん」
「ただいま。あ...智くん、昨日はありがとうございました」
「ううん」
「何か、...色々とありがとうございました」
「色々？ふふ、何の事だろう」

智くんはふわっと笑って、リビングの方へ行く。

部屋着のロングワンピースに着替えて私もリビングに下りると、ソファに居た智くんが「何か食べた？」って訊くから「食べてない」って応えて私もソファに着席。

「私、何か作りましょうか？あ、昨日のお礼も兼ねて！」
「え、良いの？デリバリーするつもりだったのに」
「たまには作りますよ！」

でも、うちに何か食材あったかな...正直、靴があるかどうかって事が心配過ぎてご飯の事まで考えて無かったから。
キッチンで冷蔵庫を開けて、何も無い事に気付く。

「智くん、私ちょっとスーパー行って来ますね！」
「おれも行こうか？」
「ううん！パっと行って来るから智くんはお米を炊いてて下さい」
「おう！任せろー！」

私は部屋着ワンピースのまま、お財布だけを小脇に抱えて家を出た。
ご近所さんから夕飯の香りがして「うちは何にしようかなー」なんて考えて、ちょっと奥さん気分。
誰の奥さんなんだって話だけど。

スーパーに着き、まずはお惣菜コーナー。
何を作るかの参考にする為。
さて、何を作ろう！とか考えてたはずなのに

「...あ」

どんな所でも、どんな時でも、私の目は

アナタをすぐに見付けてしまう。

お惣菜コーナーに居た雅紀くんは、キャップを被ってリュックを背負って。
お仕事帰りだって分かるいつもの姿で、凄く安心してしまった。

あの人とデートしてなかった、って。
それだけで、嬉しかった。