PARACAGE 3rd【ars】 (ページ21)

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91.傘。ページ21

「折り畳み傘も無いの？」
「あったらこんな電話しないでしょ？オバカさんだね」
「...切るよ」
「あーっ！！待って！ごめんってぇ、濡れるのやなんだよぉ」

うぅぅ、ってちょっと泣いてるような声色。
ニノくんって女の子だったら、男を手玉に取るタイプだな。

「ちなみにA、夕飯は食べた？」
「ううん、これから食べようかなーと思ってた」
「ちなみにちなみに、何を食べようとしてた？」
「え...何だろ、何があったかな...」

カップ麺か、冷凍のピラフかなー...ご飯を炊いて餃子でも焼くか。冷凍だけど。

「A、牛丼はお好き？」
「お好き！」
「じゃ、ご馳走してあげる」
「え？」
「タダで迎えに来いとは言わないよ。オレ、優しいもん」

優しいってのとはまた違う気がします...

「迎えに来てくれる？」
「んー、仕方が無いなぁ！」
「やった！Aが食いモンに釣られる人間で良かったー」
「やっぱ止めとこっかな...」
「あーっ！！待ってぇ！」

めちゃくちゃ面倒臭い。
でも憎めない。

「駅に行ったら良い？南口だよね？」
「ンフフ、うん。待ってるねー」
「10分位で行きます」
「ありがと！」

電話を切って部屋に戻り、部屋着を着替えてまた玄関に降りる。
傘立てからニノくんの傘を...と思ったんだけど、どれだか分かんなくてビニール傘を出した。

そう言えば、智くんはどうなった？
ダイニングに顔を突っ込んで縁側を見ると、まだ寝てる。
ニゴも寝てる。

「智くんにも、牛丼買って来るね」

小さな声で言って、私は家を出た。
外はまだ雨。
そんなに大雨では無いけど、傘をさしてなかったらシャワーを浴びたみたいにはなるってゆー雨。

ギミスタの社割で買ったお気に入りの動物柄の傘をさして、片手にビニール傘を持って駅までの道を歩く。
靴が濡れないように水溜りを避けながら。

駅の南口に着くと、迎えを待つ人や諦めて雨の中走り出す人、タクシー乗り場に並ぶ人達の中にニノくんが立ってた。

ふわふわの髪に白い肌。
遠目から見ると、女子。
そんな女子風味なニノくんが、私を見付けて「あ！」って笑って手を振った。

「Aー！」

ブンブン手を振ってる。
何てこと。ちょっと可愛いとか思ってる自分。

でも多分、私の感覚は間違ってないと思う。
だって、通り過ぎて行く女の子達がチラチラニノくんを見て行ってる。

「ニノくん、見た目だけは可愛いね」
「何だとぅ？」
「褒めたんです」
「なら良いや」

顔を見合わせて、笑う。