PARACAGE 3rd【ars】 (ページ15)

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85.朝の風景。ページ15

雅紀くんは結局帰って来なくて、翌日も帰って来なくて。

「まーたアイツ、外泊の癖出て来たねー」ってニノくんが、朝ご飯を食べながら笑ってた。

「連れ込むよりは良いんじゃない？」

潤くんが言うとニノくんは「まぁねー」って言いながらクロワッサンを齧る。
ポロポロ落ちないように片手を顎の下辺りに添えてる。

「うちでは性行為出来ないもんね」
「アッハハ！言い方」
「ンフフ、でもそうじゃない？連れ込んで何も出来ないって、地獄だと思うんだけど」
「でも雅紀は連れ込むよね、何してんだろ」
「ナニしてんだよ、声を押し殺して」

二人の会話を何とも言えない気持ちで聞く。

「規則違反してんのよ。ね？Aもそう思わない？」
「ニノくん、前にも言ったけど朝からする話じゃないでしょ！」

私が言うと潤くんが「怒られてる」って笑ったから「潤くんも同じです！」って言うと、彼は可笑しそうに肩を震わせて更に笑った。
笑うとこじゃない！

「おはよー...」
「あ、大野さん早いね」
「早いんじゃなくって、ずーっと起きてたの...」

ほとんど目が開いてない智くんがフラフラとニノくんの隣に座って、彼のコーヒーを飲む。

「じゃあ、今から寝るの？」
「まだ...だからコーヒー飲んでんの...」

そう言った智くんに返されたマグを見たニノくんが「全部飲まれたー！」って叫んだ。

そんなニノくんは「今日は遅くなるからー」って、家を出て行った。
彼は私服通勤だけど、コーデがいつもより少し軽い感じがした。
デートなのかな。
デートなんだろうな。

潤くんはいつも通りスーツで私より先に出勤して、智くんはフラフラしながら立ち上がる。

「Aちゃん...」
「はい？」
「おれ、今からまだ仕事だからさ...応援して...」
「フフッ、はい!応援してますよ！頑張って！」
「もっとちょーだい...」
「頑張れ、頑張れ！智くん！」

あはーって笑った智くんが「ありがと」って私の肩に手を乗せて、部屋に戻って行く。

私も時間になったから家を出た。
もうとっくに桜は散った。
だけど桜香寺の周りには桜の香りが漂ってるような気がしてしまう。

「翔さーん、行って来まーす！」

お掃除中の翔さんに声を掛けたら、箒を持ったまま近寄って来てくれる。

「行ってらっしゃい。あ、ちょっとジッとしてて下さい」
「え？」
「引っ掛かってます」

ピアスに引っ掛かってた髪を、翔さんがスルリと指で払ってくれた。