PARACAGE 3rd【ars】 (ページ13)

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83.鳴る。ページ13

私の腕を掴んだままの雅紀くんの声が、「大丈夫？」と頭の上から落ちて来る。

大丈夫か、大丈夫じゃないかと訊かれると、全力で大丈夫じゃないけど。
大丈夫の意味を込めて、頷く。
その様子を見てた潤くんは、首に掛けたタオルで髪を拭きながらキッチンに入って行った。

雅紀くんが、フっと笑う。
そして「やっぱ、良い匂い」って私の耳の辺りに顔を寄せたかと思ったら、そのまままたソファに座った。
彼の目はもう、サッカーの試合VTRになってるニュースに向いてる。

「なぁ雅紀」

牛乳の入ったコップを持ってキッチンから出て来た潤くんに声を掛けられて、雅紀くんはテレビを観たまま「んー？」って応える。

「彼女、出来たの？」

雅紀くんが、振り返って潤くんを見た。

「彼女？」
「昨日連れて帰って来たじゃん」
「アハッ、全然違うよ」

まさかそんな話をしてるとは思わないような表情。
その表情だけだったら、週末に何して遊ぶ？とか健全な話をしてそうなのに。

「俺あの子の名前すら知らないのに」

少年のような柔らかい声が、弾むように喋る。

「何か周りからレイチェルって呼ばれてたから俺もレイチェルって呼んでたけど、絶対本名じゃないでしょ！日本人だったし！」

アハハーって、楽しそう。

綺麗で、本当にお花が咲いたみたいな笑顔。

「ま、あっちも俺の本名知らないけど」

瞬間、その笑顔の中にある目だけが笑うのをやめたような感じがした。
口も、目尻も、笑ってるのに。

その時、ローテーブルに置いてある雅紀くんのスマホが鳴った。

「こんな時間に誰だー？」

潤くんはダイニングに座って、牛乳を飲んでる。
私はスマホに手を伸ばしてる雅紀くんを、ただ見てる。

「はーい、もしもしぃ？アハッ、うん。そうだよ」

電話をしながら、雅紀くんはリビングを出て行った。
その背中を、目で追ってしまう。

「A、早く風呂入ったら？」
「え？...あ、そうですね...！」

潤くんに言われて、「そうします！」って無理やり笑った。

「今日の入浴剤は何でしたかー？」
「何だあれ、森林の香り...とかその辺りじゃない？湯が緑だったから」
「森林の香りって結局何の匂いなんでしょうね」
「木じゃないの？」
「葉っぱとか？」
「土とか」
「土は無いでしょー！」

ケラっと笑って、私もリビングを出てその足でお風呂場に向かう。

洗面所に入っってすぐ、長い溜息と共にドアに背中をつけてズルズルしゃがみ込んだ。