PARACAGE 2nd【ars】 (ページ29)

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64.煩悩。ページ29

「よし、お兄ちゃんも手伝うからお母さん探そう！」
「うん！さがす！」
「お母さん、助けよう！」
「うん！たすける！」

頑張るぞー！って翔さんが男の子と手を繋いで立ち上がった。

「Aさん、ちょっと僕、彼のお母さんを探す旅に出ようと思います」
「フフッ、私もお付き合いします」

三人でスーパーの中に戻って、サービスカウンターで店内放送をして貰う。

「『迷子のお子様』って言わないで下さい、『お母様をお探しです』って言ってあげて下さい」と、翔さんがスタッフさんにコソコソと伝えた。

程なくして男の子の母親が迎えに来てお礼を言われて、何だか二人でペコペコしながらまた店を出た。

「お母さんが迷子だから助けよう！って元気付けるの、凄いですね！」
「小さくても男にはプライドがありますからね」

穏やかに笑う翔さん。

「翔さんって子供好きですよね？何か楽しそうでした」
「あ、バレましたか」
「そっかぁ...じゃあ子供欲しいですよね...」
「アハッ！何でそんな残念そうなんですか？」
「だって、お坊さんって禁欲...」

そこまで言って、口を手で押さえる。
しまった、言葉があまりにも直接的過ぎた！大失言！

「Aさん、僕には父が居ます」
「...はい」
「祖父も居ます」
「...はい」
「僕も『子供』ですよ？」
「.....あっ！」

そうだ！そうじゃん！
失言以前の問題だった！

「浄土真宗は昔から肉食妻帯してますからね」

父も祖父も結婚して子供もいます、って翔さんが笑う。

「煩悩に関して詳しく話すと長くなるし、興味が無いと退屈だと思うので分かりやすく言うと...」

そう言いながら彼はカブ子に鍵を挿した。

「煩悩を悪や邪魔にして消そうとせず、反対に味わいの糧にしましょうと言いますか...」
「.....はい」
「やっぱり分かり辛いですね。もっと簡潔に説明したいんですけど」

うーん、と眉を八の字にして困ったように笑った翔さんがカブ子に跨る。

「さ、乗ってください。帰りましょ」
「あ、はい！」

私も翔さんの後ろに乗る。

手を...どうしようか。
自分から抱きついても良いのだろうか。

翔さんの腰の辺りに出した手が迷う。
迷ってると彼の手が、来た時と同じように私の手をキュッと握った。

「簡単に言うと僕にも...」

その手をお腹の方へグイッと引っ張られ、翔さんにトンっと体がくっつく。

「煩悩くらい、ありますよ」

翔さんの低い声が、広い背中を伝わって響いた。