PARACAGE 2nd【ars】 (ページ22)

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57.変化する。ページ22

支度を終えて一階に降りると、雅紀くんが同じタイミングで玄関に来た。

「あれ？雅紀くん、もう出掛けるんですか？」

って、部屋着のまんまだし髪もモサっとしてるしそんなワケ無いか。

「カブ子の調子を見ようと思って。最近誰も乗って無かったから」
「あぁ、なるほど」

私はスニーカー、雅紀くんは皆兼用のサンダルを履いて外へ出て。
雅紀くんはカブ子に近寄って、ガソリンの残量をチェックしたりしてる。

「じゃあ、行って来ます。バイク、気を付けて下さいね！」
「うん、ありがと！いってらっしゃい！」

ヒラヒラと手を振られて、口元が緩むのは許して欲しい。

「あ、Aちゃん」
「はい？」
「ホントに今度、一緒に乗ろうね！」

カブ子をポンポンと撫でながらそんな事を言う雅紀くんに、余裕ぶって「ぜひー」とか言いながら心の中はプチパニック。
社交辞令、社交辞令。社交辞令は大人の嗜み。

そうは言っても、何だか浮かれてしまってた。
仕事中もずーっとニヤニヤしてたかもしれない。
何度もアカリに「思い出し笑いキモイ」って言われた。

「それはそうと、Aんち遊びに行っても大丈夫なの？」
「...あっ！聞くの忘れてた！」

忘れてたのは本当なんだけど、もしOKを貰ったところであの家にアカリを呼ぶのはやっぱりちょっと気が引ける。
何が一番の問題かって、私があれだけファンだって言い続けてる『モデル・咲』が一緒に住んでるって事だよ...言えない...！

帰りにコンビニに寄ったら、メンストの表紙が目に入った。
持ってるのに、手に取ってパラパラと捲る。

「...咲くん...」

巻末の方に、毎号モデル近況みたいなページがあってそれが私は大好きだったんだけど、何だか今は違った気持ちで見てしまう。

ダブルピースしてる雅紀くんのポラの下に『春と言えば、桜とバイクと猫！』って書いてあって。
これまでだったら、「どこの桜を見るんだろう」とか「バイクは何乗ってるんだろう」とか「どんな猫飼ってるんだろう」って全部想像しか出来なかったのに。

桜は、庭の桜だし

バイクは、カブ子だし

猫は、ニゴだし

全部、分かるんだ。ハッキリ、全部分かるんだ。

「...雅紀くん...」

私の中で、『咲くん』がどんどん『雅紀くん』になって行く。

ラックにメンストを戻して、コンビニを一周。
夜ご飯にお弁当と、三色団子を買った。

三本入りの物を2パック。

ダイニングに置いとけば、きっとみんな食べるだろう。