PARACAGE【ars】 (ページ16)

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16.普通の中の夢。ページ16

漫画でしか起きないような案件が、自分の身に起こってしまった。

リビングの三人はまだ楽しそうに喋ってるし、ダイニングテーブルに座ってる潤くんはスマホを見ながら牛乳を飲んでる。
すごく普通の生活感がそこにある。

そんな中で、私だけが夢のような現実に放り出されたような感覚。

「...モデルさん...ですよね？」
「知っててくれてるんだ！」
「だって表紙とか、されてますよね？...メンストの最新号、本屋さんで見たんで...」
「フフッ、何か恥ずかしいね」

肩をキュっと上げて、咲くんがはにかむように微笑んだ。

そんな表情、雑誌の中では見た事が無くてドキっとする。
ドキなんてもんじゃ無いかも。ちょっとビクっとした。

「でもあんまりそーゆーの気にしないで？『咲』なのはお仕事中だけで、普段は『雅紀』だし」
「...はい」
「だから出来れば咲じゃなくて雅紀って呼んで欲しいんだけど...良い？」

そんな黒目がちな目で小首傾げられて「いや、それは無理なお話です」なんて断れる人は居るんだろうか。
絶対居ないよ！居たとしたら、もうそんな人は血が通ってないとしか思えない！

「はい...」
「ありがと！あー...お腹減った。ねぇ、潤ちゃん。食べるもん、何かある？」

ダイニングに居る潤くんが「何で俺に訊くの」って言いながら、牛乳を飲み干した。

「だって潤ちゃんが一番料理上手いから。ねぇ、何か作って！」
「お生憎様、今日はもう寝ます。やっと明日休みなんだよ」
「明日休みの時こそ、夜更かしするんじゃないの？」
「俺は雅紀とは違うからね」

使い終わったコップをキッチンへ戻した潤くんが「おやすみ」とダイニングを出て行くと、残ってる全員が「おやすみ」と返事する。

「あ。Aちゃんのお蕎麦」

ムクっと床から起き上がった智くんが、こっちを見て言った。

「お蕎麦、まだあるんじゃない？」
「あ...はい」

「お蕎麦？」って咲くんが私を見る。

「前のお家の大家さんがくれたお蕎麦なんですけど...」
「食べたい！作ってくれるの？」

黙って頷く。

「やった！お蕎麦ー」

ゴキゲンに咲くんが上着を脱いで、ダイニングの椅子に引っ掛けた。

「お前、それ部屋持って帰れや」
「食べたらすぐお風呂入るから、そん時持ってく！」
「そう言っていっつもオキッパだろうが！誰が片付けてると思ってんだ！」
「ニノちゃん、いつもありがとね」

ニノくんと咲くんの小競り合いを、やっぱり夢を見てるように眺める。