PARACAGE【ars】 (ページ1)

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1.ひょん。ページ1

ひょんな事から、私は今日から見知らぬオトコ五人と一緒に暮らさなければならなくなった。

この「ひょんな事」という言葉は便利だ。
あと、「何だかんだあって」も便利。

だけど、この状況を「ひょんな事」だけで終わらすのはあまりにも不親切なので私の身に起こった「ひょん」について説明しておこうと思う。

私は、大学生の頃に一人暮らしを始めた。
学費も出して貰ってるのに、良い部屋に住みたい！なんて言えず、安いアパートを選んだ。
大家さんのお爺ちゃん、ゲンさんとはすぐ気が合って仲良くなった。
アパートの前で一緒にアイス食べながら花に水やったり、ゲンさんちでお餅焼いて貰ったり。

シャレたワンルームより安い家賃で、2部屋もあってお風呂とトイレは別で。
外観がちょっとボロいってだけで、私には充分ってゆーか最高の家だった。
古い部屋だし自分の好きなようにして良いよってゲンさんが言ってくれたから、壁も綺麗な鶯色に塗ってみたりして。それそこ私のお城だったんだ。

だから学校を卒業して、就職しても私はそこに住み続けた。
他の住人は居なくて、二階の私と一階に住んでるゲンさんだけだったけど。

私はきっと、このままずーっとここに住むんだろうなぁと鶯色の壁を見詰めながら思っていた。

「Aちゃん、ちょっと良いかな」
「あれ？ゲンさん、どうしたの？」

ある日、トントンと木製のドアがノックされて開けるとそこにはゲンさんが立っていて。
何だか神妙な面持ちで「すまない」と頭を下げた。

「なになに、どうしたの？」

ゲンさんとは大学の四年間、社会人になってからの四年間。
八年間の付き合いになるけど、こんな表情は初めて見た。

「実は...このアパートを取り壊す事になってなぁ...」
「...えっ！？」
「息子夫婦が勝手に決めてしまってて、ワシにはどうにもできんくて...」

うぅ...と、ゲンさんが悔しそうに俯く。

「本当に申し訳ない！」

土下座しそうな勢いのゲンさんの腕を必死で引っ張って「やめてやめて！」と止める。

「だ...大丈夫だよ！もし私が嫌だって言ったら、ゲンさん困るでしょ？」
「...Aちゃん...」
「私、もう結構大人だからね。どうにかなるよ。いつまでに出て行けば良い？」
「それが......」

嫌な予感しかしない空気ってのがある。
まさにその時の空気がそれだった。

「三日後」

ウソだろー！？と、私が言ったか言わなかったかは覚えてないけど。

頭が真っ白になった事だけは、覚えてる。