桃色の指先と翡翠の憂鬱 53

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阿｢如恵留、C組の先生と何を話したの？｣

カレーとフランスパンを食べ終わって、白ワインで口の中がさっぱりした。

聞き出せるのは今かな…。



川｢不登校になった生徒と、C組の副担の先生は付き合ってましたよ｣

阿｢やっぱそうなんだね｣

川｢出会って3ヶ月ですが、その3ヶ月が短いとは言えないのは阿部先生もご存知ですよね｣

阿｢うん。よく知ってる｣

川｢バレて副担から振られたみたいです｣

阿｢なるほど｣

川｢僕の立場で言うのはおこがましいのですが、彼女と話してみようと思います｣

阿｢如恵留がおこがましい？｣

川｢佐久間のことがありますから｣

阿｢俺も言える立場じゃないもん｣

川｢保身に走る男はろくな男ではないと｣

阿｢痛い…、その言葉は痛いよ｣

川｢佐久間を失うなら、教師辞めますよね？｣

阿｢もちろん。佐久間が俺の最優先｣

川｢そういうことです｣

阿｢如恵留のことも同じ決断をするからね｣

川｢ありがとうございます｣


3ヶ月で職を失う覚悟が出来ないのはわかる。

あの時の俺に、佐久間と教師どちらを選ぶかって聞いたとしたら悩んだ末に佐久間を選ぶだろうけど。

副担の先生が今みたいに即決出来ない気持ちも理解できる。

ただ、不登校になるほど生徒が追い詰められたのはいただけない。


頑張って受かった高校に期待で胸を膨らませてうちに来てくれた生徒を、何よりも大切に出来ない教師はいらない。

勉学を教えて給料を貰うだけが教師ではない。





川｢月の光の下は時間がゆっくりですね｣

阿｢夏の風が心地よいね｣

川島先生が空を見上げて、つられて俺も見上げた。

さっきより風が強くなって、月の周りの雲の動きが早い。



川｢阿部先生は教師が天職ですね｣

阿｢そうだといいなって思ってる｣

川｢僕のことは考えず、好きな事をやってください｣

阿｢ありがとう｣

川｢佐久間も佐久間がやりたいことをやって欲しい｣

阿｢うん｣

川｢温泉が楽しみです｣

阿｢如恵留もやりたいことをやってよ｣

川｢はい。僕たち3人がそれぞれの場で輝く、そんな未来も良いかもしれませんね｣

阿｢うん。…え？｣

川｢一緒にいるのは当然です｣

阿｢良かった。如恵留と離れたくない｣

川｢僕もです｣



白ワインに酔ってふわふわしてたけど、離れて暮らすことも考えてそうで心配になった。

川島先生が机に置いた左手をそっと握った。

この手は離さない、離してはいけないんだ。

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