桃色の指先と翡翠の憂鬱 48

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冷｢のえちゃん先生、ありがとう｣

川｢みんなによろしく伝えてね｣

冷｢はい｣

川｢冷也、またね｣

阿｢無料塾で来てね｣

冷｢はーい｣


冷也が歩きだして、川島先生が車を発進させた。

佐久間がいない車中は静まり返っている。

沿道に見える、散り始めた桜をぼんやりと眺める。

さっきから桜が目に入るけど、川島先生はわざと桜が植えられてる道を選んでいるのかも…。


川｢夕ご飯｣

阿｢うん｣

川｢デリバリーでも良いですか？｣

阿｢うん。如恵留も疲れたよね｣

川｢のえちゃんって僕を呼ぶ声が離れなくて…｣

阿｢うん…｣


佐久間は、キッチンで料理する川島先生の周りにいて、よく声を掛けてた。

のえちゃん、何作ってるの？

のえちゃん、これ味見していい？

のえちゃん、手伝うことある？


俺でもすぐに思い出せるんだから、川島先生はもっとだろうな。


また涙が止まらなくて、ポケットからハンカチを出して拭く。

冷也に借りたまま、洗濯して返さないと…。


家に戻って、玄関で迎えてくれた3匹の頭を撫でる。

あべちゃん、おかえりって走ってくる佐久間もいない…。

阿｢書斎行くね｣

川｢はい｣

仕事用はバッグを机に置いて、ノートパソコンを取り出した。



あべちゃんの宝物、借りるね

佐久間の言葉を思い出して、小さな王子様が並ぶ棚を確認した。

訳によって雰囲気が違うから、何冊か集めている。

佐久間が持って行った場所に、手紙が挟まってた。

封筒を開けて、便箋を取り出すと桜の花びらが落ちた…。

半分に折られた便箋、開くと桜の花びらが舞う…。

これ、本物だ。




あべちゃんへ

桜が散る前に旅立ってごめんね。

飛行機から東京の桜が見れたらステキかなって、予定を早めちゃった。

俺を好きになってくれてありがとう。

俺を愛してくれてありがとう。

俺と結婚してくれてありがとう。

もっともっと、ダンス上手くなって帰るから。



結婚記念日、またあの場所で待ってるね。


佐久間大介





佐久間…。

あの場所、準備室前の廊下。


佐久間の誕生日で結婚記念日。

わかったよ、佐久間。あの場所で待ち合わせだね。





【桜舞う夕暮れ編】




fin.

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