桃色の指先と翡翠の憂鬱 48

・ ページ23

阿｢如恵留どこ？｣

川｢ここです｣

川島先生が書斎から顔を出した。

阿｢仕事するって伝えて来た｣

川｢狗尾草のお散歩中です｣

狗尾草は書斎の中を嗅ぎ回ってる。



阿｢狗尾草、佐久間がいなくなっちゃうよ｣

川｢彼は大丈夫ですよ。1人で生きている動物です｣

阿｢そうだね。1人で生きられないのは人間の方か…｣

川｢またネガティブになってます｣

阿｢ううん。今は平気｣

川｢佐久間は笑って見送られたいと思ってます｣

阿｢うん｣

川｢佐久間には笑顔が似合います｣


俺と川島先生が泣いたら、佐久間も泣いてしまう。

出来るだけ、涙は堪えよう。




椅子に座ってノートパソコンを開いた。


川｢仕事するんですか？｣

阿｢する。してた方が気持ちが楽｣

川｢そうですね。僕も書類整理します｣

阿｢無料塾、新年度はどう？｣

川｢数学と英語の申し込みが多いですよ｣

阿｢週1だけで平気？｣

川｢ダンス部の交代をしたら、増やしてもらっても良いですか？｣

阿｢うん｣

1学期はまだ俺が顧問で、川島先生は外部コーチ扱い。



佐｢ちょっといい？｣

佐久間ノックをして、顔を出した。

川｢どうしたの？｣

佐｢ひかるが帰るから｣

阿｢もう？｣

佐｢うん。また仕事行くって｣

川｢見送りますね｣

ひーくんの4月からの勤め先は、ふっかしか知らない。

しかも、場所だけ。

知ってても知らないとしか言えないんだと思う。

下の玄関で、ひーくんが靴を履いてる。


照｢明日は行くからね｣

佐｢うん。待ってる｣

阿｢ひーくん、ありがとう｣

照｢俺が会いたくて来ただけ。おやすみ｣

佐｢おやすみ｣



コンビニで買ってきたスイーツは2つしか食べてなかった。

佐｢照と半分ずっこしたから、後は一緒に食べようよ｣

川｢少し冷凍庫に入れて、外で食べる？｣

阿｢その間にお風呂？｣

佐｢いいねー。あべちゃんと最後の夜にね、天体観測したかった｣

川｢佐久間、最後ではないよ｣

佐｢そうだけど…｣

阿｢東京、最後の夜ね｣

佐｢そそ｣




主寝室のお風呂に3人で入った時は佐久間は普段通りで。

コンビニのスイーツをトレーに乗せて、バルコニーに出てから、佐久間の会話が止まらなくなった。

話が大好きな佐久間はいつもなんだけど、今夜は様子がおかしい…。

沈黙が怖いような、息付く間もなく話してる。



川｢佐久間。止まって。泣いていいから｣

佐｢…うん｣


川島先生に言われた佐久間は、静かに空を見上げて瞳から涙を落とした。

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す