5滴目 ページ6
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時刻は8時。もう星もキラキラと輝く時間帯。
さっきまでは学生が多かったから少し警戒しながら街を歩いていたが、今はもう仕事帰りの大人に紛れることができるので先程より安心して歩けるようになった。
『今日もありがとうございました。すみません、いつも奢ってもらっちゃって……』
「いやいや!いいんだよ、おじさんもAちゃんみたいな若い子と一緒にごはんできて幸せだからさ!」
あー気持ち悪い気持ち悪い。さっさと帰って全身をくまなく消毒したい。
それじゃあ今日はこれで、と組んでいた腕をぱっと離してその場を離れようとすると、後ろからちょっと待ってと腕を掴まれた。
え、なに……?いつもはこんなことないのに。なんだか嫌な予感がした私はゆっくりと後ろを振り返った。
『ど、どうしました?』
「今日はね、どうしてもAちゃんと行きたいところがあるんだ!いいかな?」
『えっと、それってどこですか?』
「それは着いてからのお楽しみだよ!」
おじさんはそう言い終えると、私の腕を掴んだまま歩き出した。
嘘でしょ、着いてからのお楽しみってなに?どこにいくの?おじさんはいつまでも手を離してくれない。
冷や汗が頬を伝い、緊張で指先の感覚がなくなってくる。
ダメだ、冷静にならなきゃ。もしかしたら夜景が見たいとか、そんなのかもしれない。そうだコーヒーのうんちくなんて語るくらいなんだからそういう気持ちの悪いロマンチックなことをしたがるだけだよね。
そう思いながらも、どうしてもどこに行くか気になった私はおじさんに揺さぶりをかけることにした。
『あの、どこに行くか教えてくれませんか?私、まだ宿題が残ってるからはっ、早く帰らないと……』
「ふふ、すぐ終わるから大丈夫だよ。あとちょっとで着くよ!」
あとちょっとで……?その言葉を聞いた時私はハッとした。この先って……
緊張で周りを気にしていなかったけれど、明らかにさっきよりも人通りが少ないし、ちらほらと見えていた学生は1人もおらず、成人した大人ばかり溢れていた。
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作者名:ふわぴ | 作者ホームページ:http://urana
作成日時:2021年1月30日 17時