アクリル恋模様 (ページ38)

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本当は渡したくないけど、でも校内で1番モテるような先輩のラブレターを私が捨てたとなれば、明日から安心した学校生活が送れる保険などいとも容易くなくなるだろう。

それになかむはこうして毎日一緒にお昼ご飯を食べてくれるんだから、もしかしたら……なんて。
ぐちゃぐちゃになる頭でポケットの中身をぎゅ、と握って私は息を吸い込んだ。

『……なかむ、卵焼きのお礼あげる』
「え？お礼なら先に食べ、」
『は、い…これ。____先輩からだって』

ちょっと声震えてたかも。私はなかむの顔も見ずに胸元にぐしゃりと手紙を押し付けた。
彼は驚いたような声でえ、マジ？と繰り返した。

「それってあの人だよね？あの結構有名な」
『そうだよ。うちの学校で1番、かわいい人』

何回も言わせないでよ。半ば苛立ちはじめた私は当てつけのように"かわいい"を主張してしまった。
ちらりと彼の顔を盗み見れば、私の心臓は酷く締め付けられた。

ああもう、見なきゃよかった。

「嘘！？俺そんな人からラブレターもらったの？」

そこには私の大好きな、キラキラとした顔のなかむが。まんまるのおめめはぱっちり開かれて、心做しか顔もちょっと赤い気がする。

あーあ、最低。
こんなことなら最悪な学校生活を覚悟してでも、こんな手紙ビリビリにしてやればよかったな。あぁそれとも、燃やして手紙自体消せばよかったかも？

『よかったね。それだけなかむが素敵な人ってことだよ。あ、私今日用事あるから一緒に帰れないわごめん』

私が大好きになるくらい素敵な人、なんて今の私に言う資格はないから。

乱雑に自分の弁当箱を掴んで立ち上がった私は、彼の返答も聞かずに屋上を後にした。ばたばたと追いかけてくる足音が聞こえたような気がしたけど、それも他の生徒に紛れて次第に聞こえなくなった。

「あれ、Aさんなかむは？って……え、どうしたの！？」
『んー？あはは。さっきそこで擦りむいちゃった』

教室に戻ればぎょっとした顔のきんときくんが駆け寄ってきてくれた。

この傷、一生消えないだろうなぁ。

制服に染み込んだ涙の跡を見ながら、私は大したことないから大丈夫、ときんときくんに笑い返した。