アクリル恋模様 (ページ11)

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『ねえダーリン、夫婦なら私たちってもっと支え合うべき存在になったほうがいいと思わない？』
「んー？俺はAが俺に笑いかけてくれるだけで幸せだから大丈夫」
『そういうことじゃないんだけど……もう、なかむ苦しいよ』

ぎゅうぎゅうとまるで加減を知らない力のまま抱きしめられてしまっては、ここ数ヶ月ベッドの上から動けていない体で抵抗なんてできるわけがなかった。
まだちゃんとごはんが与えられてるだけでよかった。これでごはんすらまともにもらえてなかったら肋骨辺りが折れてただろうな……

私がそんなことを考えているとは露知らず、壊れたおもちゃのように「すき、大好き……」と繰り返すなかむの頭をそっと撫でるとえへへ、とかわいい声が聞こえた。

こういうところは昔のまともな彼のままなんだけど。それとも、もしかして初めて会ったときから彼はおかしかったのだろうか？

恋は盲目とは言うけど、そんなの気づけるわけがないじゃない。

『ねえなかむ、こっちむいて』

私は枕の横に置いてあった花を手に取り、茎の部分を編み込んで花の王冠を作った。

懐かしいなぁ、外に出られた頃は彼と一緒に公園でピクニックとかしてたっけ。
私が作ったお弁当を笑顔で頬張る彼は本当にかわいかった。2人でしゃぼん玉を吹いたり、木陰で寝転がってゆったりと空を眺めたり。

あのときは本当に幸せだったのに。
その幸せが、私のまぶたの裏に焼き付いて嫌でも離れてくれないのだ。

私の作業を食い入るように見つめるなかむに少しだけ微笑みかけて、丁寧に編み上げたそれをそっと彼の頭に乗せた。

「わあ……！こんなのもらっていいの？花ならAのほうが似合うのに」
『ううん、その冠はなかむにあげたかったの』

なかむがくれた、いい匂いのする造花で作った永遠に綺麗なままの花の冠を。
私達は夫婦なんかじゃなくて、ただの王様と従順な下僕の関係でしかないから。

それでもなかむがずっと笑っていてくれるならそれでもいいかなぁ、なんてね。

そんな幸せとは程遠い、ただの"好き"だけが残ったこの部屋で私は密かに戴冠式を行ったのだった。