159．僕は家族には見えなかったよ ページ9
独りぼっちで静かな家にいると余計なことを考えてしまう。そのため炎真との秘密の場所にいる猫に会いに行き、比較的暖かい日ざしを浴びながら河川敷で横になったのが最後の記憶。
「ん……」
「あ、起きた？」
「ぅわ！炎真いたの？」
いつの間にか隣に座っていた炎真に驚き飛び起きる。すると彼の側にいた猫が小さく鳴き声をあげた。
帰りにこの場所に寄ると学校を休んでいたはずの私が寝ていて、起こさずに待っていてくれたらしい。「上着かけてくれてありがとう」と炎真の匂いのする制服をそっと返す。彼は「風邪で欠席したんだと思った」と私の顔を一瞥して受け取った。
「少し微熱で」
「ここで寝てたら悪化すると思うよ」
「はーい」
そういえば、と切り出して炎真に「炎真もマフィアだったんだね。知らなかった」と声をかける。そんな私の言葉に「訊かれなかったから」と呟いた彼は、顔を埋めるようにして膝を抱えた。
「Aもツナ君のファミリーなの？」
「私は違うよ。ただ事情を知ってるだけ」
「へー」
「綱吉の警護を炎真達もするってすごいね」なんて笑いかけると、炎真は少しの間をおいて「……僕もAと綱吉君が幼馴染って知らなかったよ」と口を開く。
その言葉の返答に困り「訊かれなかったから」と彼と全く同じ文章で伝えると、軽い無言が続きそれが途切れた瞬間どちらからともなく笑ってしまった。あはは、と小さく笑う炎真の笑顔はあまり見たことがないもので、目に焼き付けるようにして目を細める。
「仲良さそうだったね」
「……私達は家族みたいなものだから。ほら、京子も言ってたでしょ？血の繋がりはないんだけどね」
「そうかな。僕は家族には見えなかったよ」
ドクッと跳ねた心臓。「人によって捉え方は変わると思うけど、僕にはそんな風に見えなかったな」と呟きながら猫を撫でる炎真の言葉を聞いて、勝手に胸の高まりが勢いを増す。
期待しちゃだめだ、と言い聞かせながら「初めて言われたぁ」と笑いながら芝生に寝転ぶ。ふと視線を感じて炎真を見ると、彼は「そういえば」と口を開いた。
「告白の噂、本当だったんだ」
「……まぁ」
「断ったってきいて少し安心した」
嫌な予感のする言葉に顔が強ばる。このちょうど良い距離感が心地いいのに、友達の枠から外れてしまえば今までの関係に戻れなくなる。
私のことを好きにならないで。
変わらないで。そのままの炎真でいて。
そう願ってしまう私は、間違っているのだろうか。
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
