158．ツナにも頼ってね ページ8
翌朝、軽い喉の痛みに顔を歪める。
風邪をひきそうな予感がすると考えながらも制服に袖を通した。
昨日、何があったと訊いてくれた隼人は、食材を買い込みすぎたという私の嘘を見抜いていたに違いない。私が綱吉の家から出てきたことも察していたようだし。
今までの彼ならバイト終わりに家に来てくれて、私が落ち着くまで側にいてくれたはず。そんな勝手な期待を、綱吉だけでなく隼人にもしていたことが嫌だった。
「ごめん」
誰に伝えるでもなく、姿見の前でただ呟いた一言。隼人を好きになりたいと思ったはずなのに、その決心は揺らぐばかりで、最近では綱吉に似ている炎真を利用しようとしている自分が醜くてたまらない。
私を好きだと言ってくれた隼人。彼がしとぴっちゃんのことを優先した事実を複雑な感情で受け止めながらも「私から離れていかないでなんて、卑怯だよね……」と少しでも感じてしまった気持ちを言葉にした。
「やっぱり休も」と手に取ったリボンタイをベッドに投げ捨てて学校へ連絡する。連絡を終えて制服を椅子の背もたれにかけた私は、下着のままボフッとベッドに倒れこんだ。
「誰にも、会いたくない」
両手で顔を覆いながら浮かんだのは昨日の綱吉のこと。矛盾だらけの自分の気持ちにため息をついて考え込んでいると、気付けば1時間経っていた。
考え事してたら時間が早く過ぎるなぁ。そんなことを思いながら、綱吉が学校のうちに奈々さんに昨日のタッパーを返そうと軽く準備をして家を出ることにした。
「あら、Aちゃん？」
「奈々さん、とても美味しかったよ。いつもありがと」
「よかったわぁ」
昨日ぶりに踏み入れた敷地内。出てくれた奈々さんに「今日は早帰りの日？」と言われて「風邪気味で休んじゃった」と苦笑いする。すると彼女は「大変！」と慌てて家の中に戻り、暫くして何かを持ってきた。
「病院は？薬とかあるの？」
「病院行くほどでもないから。市販薬もあるし、大丈夫だよ」
「食べられるものは何でも食べるのよ」そう言って家にあったであろうプリンやのど飴を纏めて袋に入れて渡してくれる奈々さん。
悪いからいいよと慌てて後退ると、彼女は「たまには甘えていいのよ、Aちゃん」いつでも連絡してくれたら行くからね、と笑って頭を撫でてくれた。
「ツナにも頼ってね。あの子、Aちゃんのこと大好きだから」
その言葉に私は頷くことさえできず「ありがとう」と誤魔化すように笑ってその場を離れた。
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
