188．だから、側にいてあげてよ ページ38
「……失礼します」
ノックをして病室に入った炎真の目に映ったのは、静かに眠るAの姿。個室はこんな風になっているのか、と考えながら彼女に近付く。
復讐者に闇討ちされて実際に彼等と直接戦った僕は、復讐者の強さや恐ろしさがいやと言うほどわかる。「怖かったよね」と小さく声をかけるけど、眠っているAが返事を返してくれるはずもなく、それは小さな独り言になった。
「A」
このまま僕の呼び掛けで彼女が起きたら、目が覚めたAに一番に会えるのは僕だな。少しでも浮かんだ思考に自嘲の笑みを浮かべながら「……声が聞きたいよ」と呟く。
目を閉じた彼女は長い睫毛が印象的で、サラサラの髪の毛がふわりとシーツに広がっていた。今ならAに触れてもいいだろうかと恐る恐る髪に向かって指先を伸ばす。その瞬間、聞き覚えのある足音が聞こえて慌てて手を引くとガラッと扉が開いてツナ君が入ってきた。
「ツナ君、リボーンは？」
「さっきまで話してたんだけど、気付いたらどこかに行っちゃった」
「そうなんだ」
「A、起きてないね」とベッドに駆け寄り、近くの椅子に座った流れで彼女の手を取るツナ君の指先を眺めながら「まだだよ」と答える。そんなに簡単に触れられるんだ、と見てはいけないものを見たような気持ちになり思わず目をそらした。
すると、どこか懐かしむような顔をして「Aは昔よく病院に通ってたんだ。体が弱いから今でもよく風邪ひくんだけど」と笑うツナ君の言葉で、彼女がこの間も風邪で欠席していたことを思い出す。
「Aは全然顔に出さないし、痛みとかも我慢するだろうから、炎真がよかったら少し気にかけてほしい」とお願いされて「……わかった」と小さく頷いた。
「こんなこと言ってるけど、Aに合わせる顔がないや」
「どうして？」
「巻き込みたくなくて話さなかったのに、結局怪我までさせちゃったから」
「でも、怪我をさせたのは復讐者で……」
そんな僕の言葉に「俺はあの日、Aが夜一人で帰ることを知ってたんだよ」と泣きそうな顔をするツナ君。罪悪感で胸が苦しいとでもいうような表情の彼に「Aは」と言いかけて、言葉に詰まったような気がした。
「……Aは、目が覚めたときにツナ君が側にいてくれるだけで嬉しいんじゃないかな！」
目を丸くさせるツナ君の返事を聞く前に「だから、側にいてあげてよ」と笑いかけると、ツナ君は「うん」と優しい表情を浮かべて笑った。
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
