177．幼馴染のままがよくて ページ27
「……あ、あのA」
最初に違和感を感じたのは、教室でのことだった。
綱吉は、先週の放課後の会話をAに聞かれていたかもしれないという不安で、昨日までろくに眠れなかったことを思い出す。そんなモヤモヤとした感情を拭いたくて、勇気を出して彼女に声をかける。
「おはよう、綱吉」
「えっ……おはよう！」
避けられるかもしれない、と怯えていたがそんなことはなく彼女は普通に挨拶をしてくれた。
「今いく！じゃあね」
「あ、うん……」
「A課題見せて」「自分でやってよそれくらい」そんな会話が聞こえて思わず立ち尽くした。Aは、俺との話を遮られても絶対に他を優先するような人じゃなかったのに。おかしいな、とは感じたものの気のせいだと信じて席に戻る。
しかし、そんな違和感を感じる出来事がその日だけで何度も起きた。普通に話せるのに目が合わないし、俺が京子ちゃんと一緒にいても全く視線を感じない。
「やっぱり聞こえてた……？」
彼女の様子が変になる心当たりといえば、やはりあの日のこと。俺は、ちょっとした強がりで『Aには獄寺君と付き合ってほしい』と笑って炎真に言った。だけどあれは、嘘じゃない。
獄寺君の恋は応援したいし、Aも自分の気持ちが単なる寂しさだと気づいてほしいとも思う。Aは、好きになってくれる人と付き合って一緒にいるだけで笑顔になれるような、そんな幸せを感じてほしい。
＿＿なのに、どうしてこんなにも胸が張り裂けそうなのだろう。まるで、Aのことが好きだったときの感覚に似ている。
しかし、俺の好きな人は京子ちゃんだ。死ぬ気弾で京子ちゃんに告白することができたのは、京子ちゃんへの気持ちが確実に恋愛感情であるということ。ま、まさか俺って同時に2人の人間を好きになっちゃうタイプだったのー！？
「でも、Aとは幼馴染のままがよくて」
ぶつぶつと独り言を呟いていると、視界の端で炎真とAが話していることに気がつき、咄嗟に耳を澄ませる。
「ねぇ、つな……」
「……ん？」
「……
「……うん」
炎真とは仲がいいのかと少し嫉妬する。だけど、その時の切ない笑顔を浮かべた炎真が妙に気になって、その後の授業の内容は頭に入ってこなかった。
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
