175．……いいのに、そんなの ページ25
エンドロールが終わり、暗かった館内が明るくなる。眩しそうに目を細めるAを横目で見ながら、炎真は“よりにもよってこんな内容だったとは”と軽く後悔する。
夕方ということもあり、時間帯的にも上映している映画は少なくて、必然的に観ることになったのは恋愛映画。最終的には片想いが成就する内容で『好きすぎて、胸が痛い』と涙を流すヒロインが印象的だった。
「あー面白かった！」
「面白かったね」
「途中、感情移入して泣いちゃった」
「……僕もうるっとしたよ」
「ふふ、本当に？」
映画の途中で、Aが静かに目元をハンカチで押さえていることには気付いていた。ヒロインの立場が、彼女の状況に酷似していて共感したのだと思う。
映画館を出てからゆっくりとした足取りで外に向かうA。「冬は暗くなるのが早いなぁ」と言って俯いた彼女の歩幅に合わせながら、炎真は「さっきまであんなに明るかったのにね」と呟く。
そんなとき、炎真はAの指先が寒さで赤くなっていることに気が付いた。それと同時に、今朝のジュリーの“手くらい繋いでこい発言”が頭に浮かぶ。しかし『友達だからしないよ』と心の中で否定してポケットに自身の手を隠した。
「今日はありがと。炎真に予定がなくてよかった」
そう言って笑うAは、炎真が自分の予定よりも彼女のことを優先したとは知らない。「楽しくて、あっという間だったよ」と寂しそうに呟くAを見ていられなくて炎真は気付けば口を開いていた。
「明日は予定あるの？」
「ない、けど」
驚いたようにきょとんとするAに、炎真は「Aがいいなら明日も会おうよ」と言う。このまま家に返したら、きっと泣いてしまうと思ったから。
「……本当に優しいね、炎真」
「家にいても、特にすることないから」
そんな照れ隠しのような言葉を重ねると、Aは泣きそうな顔で笑った。彼女には笑っていてほしいと願うのは、友情としての感情なのか、それとも＿＿。
「じゃあ、明日どうしよっか」
「ご飯でも食べに行く？」
「……あ、炎真がよかったら、材料もあるし私の家でたこ焼きパーティーとかしない？」
もちろん外でご飯食べるのもいいんだけど、と続けるAに「いいね。そうしよう」と笑う炎真。
「いつか炎真にはお礼しなきゃね」
「……いいのに、そんなの」
心なしかAの足取りが軽くなったことに安心して、自然と口角が上がったことに炎真は気付いていなかった。
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
