【REBORN】最高の幸せ 4【沢田綱吉】 (ページ24)

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174．映画観ようよ、長いのページ24

「Aそんな服も着るんだ」
「うん、今まで機会がなくて」

下ろし立てなの、と笑うAの表情を見てツナ君のために買ったのだと理解する。カツカツとブーツの音を鳴らしながら「見て！すごい」とショッピングモールを指差す彼女の後を炎真は追いかけた。

「お店がいっぱい。並盛にも建ててほしいね」
「そうだね」

ショッピングモールにたどり着いた2人は、人の多さに驚きつつも適度な距離感を維持しながら歩いていた。

「行きたいお店があるの？」と炎真が尋ねるとAは「雑貨屋さんとか行きたい」と笑う。昨日泣いていたとは思えない、と彼女を他人事のように観察しながら「あっちだって」とマップを確認した。

「ずっと気になってたんだけど」
「何？」
「その上着、裏返しになってるかも」
「わ、本当だ」

炎真が「リバーシブルじゃないのに」と脱いで表側にしていると、楽しそうに笑っていたAが「あはは！炎真、綱吉みた……」と言いかけて言葉に詰まる。

視界の端に見えた切ない表情には気付かないふりをして、咄嗟に話題を変えようと「A、どう？」と着直した上着を彼女に見せた。

「うん、完璧」

そう言って笑ったAは、いつも通りの彼女だった。

それからはご飯を食べに行ったり、洋服を見たり、ペットショップを遠くから一緒に眺めたり、お互いが興味のあるところは全て回った。

案の定、特にすることもなくなり足が止まってしまう。帰る時間が迫っていることに不安を覚えたのか「門限は何時？」と訊くAの表情は切ない。その瞬間、彼女が余程家に独りでいたくないのだと察した。

「僕は特に。何時でもいいよ」
「でも、遅くなる前に帰らなきゃ心配させちゃうから……」
「A」

早く炎真を家に帰してあげなきゃいけない、とでもいうようなAの言葉を遮るように、炎真は彼女の名前を呼んだ。『今日は無理して誘いにのったわけじゃない』『もっと一緒にいよう』そんな意味を込めて、Aのポンチョコートの袖を掴む。

「映画観ようよ、長いの」

炎真は、目を見開くAの腕をコートにシワがよらない程度に握って映画館の方向へ歩き出した。小さく聞こえた彼女の相づちは少し震えていたのに気のきいた発言すら浮かばない。

「早く帰っても暇だから」
「……」
「あと少し、一緒にいてくれると助かる」

炎真は、こんなことでしかAの力になれない自分の無力さを隠すように、腕を引く手にそっと力を込めた。