173．早く会いたくなったから ページ23
翌朝。並盛のとある民宿では騒がしい声が響いていた。炎真は耳元で出される大声に顔を歪めながら「……帰りはちょっと遅くなるかも」とアーデルハイトの質問に答える。
「炎真！結局約束していたなら守らんか！」
「まあまあ。ランボさんには伝えてなかったから問題はないし……」
「だが、昨日の朝に約束していたではないか！」
「先約を優先するのが当然だろう！」と拳を握りしめる青葉に、大山は「暇ならランボさんと3人で遊ばないか誘っただけで、別に先約というわけじゃ……」と続ける。
「あ？女か？デートなのか？炎真」
「……違うよ」
「ふーん」
ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべるジュリーは、炎真の表情を見て何かを察したのか「先約があったのを忘れてたんだろうよ」と騒いでいる2人に言う。ポンポンと炎真の頭を軽く撫でたジュリーは「手くらい繋いでこい」と笑った。
「……だから、そんなんじゃないって」
「何かあったら連絡するのよ炎真」
「アーデル、わかってるよ」
これ以上家にいたら詮索されるような気がして、約束の時間よりも少し早いが家を出ることにした炎真は、ファミリーの視線をヒシヒシと感じつつも「いってきます」と待ち合わせ場所に向かうことにした。
ふと、『デートか？』とジュリーに言われた一言を思い出す。彼女との関係は“ただの友達”だからデートじゃない、と自分に言い聞かせるけど＿＿＿＿。
「期待しちゃったな……」
「何が？」
「ぅわぁ！」
突然背後から独り言への返答があり動揺が隠せないまま尻餅をついた炎真。そんな彼の目に飛び込んだのは、言葉にできないくらいの美しさだった。
太陽の光に照らされてキラキラと髪の毛が反射する。逆光であまり表情が見えないというのに、すぐにAだと理解した。
ふわふわに巻かれたヘアスタイルや、ミニ丈のツイードスカートから覗く日焼けを知らない足。黒いリブニットは彼女のスタイルを強調していて、その姿から目を離せない。炎真は、Aの隣を自分が歩いてもいいのか疑問に思うくらい彼女に魅了されていた。
「炎真、待たせてごめん」
「……ううん、僕も今来たし」
「楽しみで早く家を出たんだけど、待ち合わせ場所に炎真がいたからびっくりしちゃった」
炎真は、ふふっと笑う彼女の手を借りて立ち上がる。「……Aに、早く会いたくなったから」と彼が勇気を出して本心を伝えると、Aは少し驚いたような顔をして「……私もだよ」と小さく笑った。
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
