171．俺は京子ちゃんが好き、だし ページ21
少し傷付いたような、複雑な表情を浮かべる炎真は「そっか」と小さく呟いた。
「俺は京子ちゃんが好き、だし……」
昔からお互いを必要としていた俺達。家族のような距離感でそばにいて、独占欲を感じてしまうのも無理はない。だけど、Aの俺に対する気持ちが『好きな人』ではなく『ただの幼馴染』だったと気がついてしまうのが怖くなった。
「じゃあ、Aのことはもうなんとも思ってないの？」
「……うん」
ふいにされた質問に胸が騒ぐ。Aとこのままの距離がちょうどいいと思っているはずなのに、気分が晴れないのは何故だろう。
どうして俺に告白したんだと、幼馴染以上の関係を望むAに苛立ちすら覚えて、そんな自分も嫌になる。
未来から帰って来て、突然髪型を変えたAは目に見えるほどに告白される頻度が増えていた。Aは俺の幼馴染なのに。『Aの幼馴染』は俺だけの特権なのに。どんどん彼女が遠い存在に思えてきて最近は焦燥感が隠せない。
このままではAが俺から離れていってしまう。積み重なった不安は、Aのいない生活が考えられなくなるくらいに、二人で過ごした時間の長さを物語っていた。
「Aとは、一緒にいた時間が長すぎたんだよ」
そう、Aが隣にいる生活に慣れすぎたんだ。思わず溢れた独り言に「……ずっと一緒にいると、気持ちも変わるんだね」と炎真が反応する。返す言葉が見つからなくて、ずっと感じていたことを無意識に口に出してしまった。
「Aには、獄寺君と付き合ってほしいって思うから」
2人は知ってるのかな。俺とAが一緒にいるときは『幼馴染のお世話をさせられるA』だと言われるのに、獄寺君とAが一緒にいると『美男美女でお似合い』だと言われる。
俺が2人を会わせたし、それを後悔したことは1度もない。それに、死ぬ気弾を使わないと京子ちゃんに告白できなかった俺と違って、獄寺君はAのことが好きだと真っ直ぐに想いを伝えていた。
Aは獄寺君みたいな優しくて強くてかっこいい人がお似合いなんだと思う。
「ツナ君……」
少し泣きそうになりながらも反省文を書き終えると、聞き覚えのある足音がして教室の入口を見る。
タイミングよく様子を確認しに来た担任に「終わりました」と提出すると、彼は軽く目を通しながら「さっき松田に会ったか？」とAの名前を口にした。
「今そこで見かけてな。様子が変だったんだが何か知らないか？」
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
