165．誰だと思う？ ページ15
＿＿“考えるだけで胸が苦しくなっちゃう人はいるよ”。
「はぁ」と軽くため息をつきながら目の前の猫を撫でる。今さらになってAのあの言葉が何度も脳裏を過り不安が募っていた。
ツナ君と別れてから家に帰る気にもなれずいつもの場所に向かったものの、一向にぐちゃぐちゃの思考がすっきりする気配はない。
「誰だと思う？」
にゃあ、なんて小さく鳴いた目の前の生物は理解しているのか否か不思議そうに首をかしげる。
Aと恋愛の話をしたとき、彼女はまだ恋してると認めたくない人がいると言っていた。直接本人に訊きたくても、それが誰かを知りたくない感情が邪魔をして訊けずに落ち込む悪循環に陥っている。
「……獄寺君かな」
一番に浮かぶのはツナ君の右腕である彼。ちょっと怖いけどAには優しい姿をよく見かけるし、Aもたまに彼の方を見ている気がする。そんな思考で夕日を眺めていると「あ、やっぱりいた」と聞き覚えのある声がした。
「……A？」
「ちょっと炎真と話したくて探してたんだけど……」
いなかったらどうしようかと思ってた、と笑う彼女は驚く僕をよそに「見ない間にすごく懐かれてるね」と猫と僕を見ながら表情をコロコロと変える。そんな彼女の笑顔に胸がじんわりと温かくなった。
「話したいことって？」と隣に座った彼女を見ることなく問いかけると、Aは少し言いにくそうにしながらもゆっくり口を開く。
「さっき、綱吉と裏門の近くにいた？」
「……うん」
「……話の内容って聞こえてた？」
不安そうな表情を浮かべる彼女は何を心配しているのだろう。核心に迫るのが怖くて、それ以上は考えないようにしながらも「告白されてたね」と呟いた。
「やっぱり聞かれてたかぁ」
「内容は聞こえてないけど、雰囲気的にそうなのかなって思っただけ」
「返事どうしたの？」と気にしていない素振りで訊いてみると、彼女は「断ったよ」と即答する。どうやら、親友である笹川さんのことを知り合いでもないのに呼び捨てした時点で答えは決まっていたらしい。
「振った後も京子なんかより私の方が可愛いって何度も言われたの。それで私が喜ぶわけないのに」
「……」
「だから、京子は私の大切な親友で一番可愛い子ですって言って逃げてきちゃった」
京子になりたいって思った私を否定されるみたいで嫌だったんだよね。そう言ってため息をついた彼女は「そういえば」と何かを思い出したように僕と目を合わせた。
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
