＊ ページ16
僕は椅子から立ち上がり、彼に近づいた。
ちょうど、ギターが乗っかっているすぐそこまで。
彼は少し驚いた顔をして僕を見上げた。
僕は何も言わずに顎をすくった。
されるがまま顎を少し上げた彼は、なんだか猫みたいだなって、ふと思った。
そう言えば、なんでこうしようと思ったんだっけ。
今更ながらに自問自答していたら、彼は何を思っのたか、ギターを自分の脇にずらして置いた。
今度は僕が驚く番だった。
彼はそのまま立ち上がった為、顔の距離は数センチ。
少し動いたら鼻先がぶつかりそうなくらい近くて。
僕と同じくらいの身長の彼は、少し背伸びをして、僕の額に手を当て、前髪をかきあげた。
小さなリップ音がたった。
瞬きも忘れていたのだと思う。
「…そう言えば、そんな時期もあったな。」
僕と視線を合わせて呟いた。
あぁ、確かに。互いに依存しあってた時もあった。
「懐かしい話やね。」
僕はソファーに置いてあったギターを机の上に移動させ、彼をソファーの上に押し倒した。
「……どうぞ、お手柔らかに。」
「…それは、イエスやと受け取っていいん？」
ここは楽屋だ。
もしかしたら、メンバーやスタッフさんが来るかもしれない。
まぁ、今更遅いかもしれへんな。
「…そう言えば、そんな時期もあったな。」
彼は僕が惚れたその照れたような苦笑いをして、
「…懐かしい話やね。」
そう呟いた。
普段の少し掠れた声も、歌っている時のその小さな身体から出てるとは思えないほどの声も、叩きつけるように叫ぶシャウトも、ギターを弾く姿も、楽しそうにブルースハープを吹く格好も。
その全てを愛してします。
これからも、ずっと。
僕は貴方が─────────
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
あの日の哀しみさえあの日の苦しみさえ
その全てを愛してた貴方と共に
胸に残り離れない苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
今でも貴方は私の光
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
lyric Lemon/米津玄師
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作者名：Haru | 作成日時：2018年6月28日 19時
