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伊織さんが旅館の人に話してくれて、お部屋にお布団まで敷いてもらってしまった。
恐縮しながら横になる。
部屋まで運んでくれた小山さんは、俺荷物降ろしてくるからね、って伊織さんの髪をするっと撫でて出て行った。
伊織さんが付き添ってくれる。
「……すみません」
やっと声が出たと思ったら、思った以上に掠れた小さな声しか出ない代わりに、涙が溢れてきてびっくりする。
「ううん、大丈夫だよ。酔っちゃったね、山道だったもんね」
伊織さんが優しい笑顔で言ってくれて、お部屋にあったピッチャーから冷たいお水を注いたコップを持ってきてくれる。
「慶ちゃん荷物運んでくれるって言ってたし、手続きもしてくれると思うよ。ゆっくり休もうね」
涙が出てくる。
「伊織さん…」
「どした?吐く??」
伊織さんが綺麗な目をまあるくして、両手をお茶碗の形にしてサッと素早く私に向けるからつい笑う。
「ふふふ、すみません…大丈夫です」
「ホント?でもいつでも!言ってね?」
可愛いなぁ。
涙を袖口で拭いてたら、伊織さんが部屋をノックする音に気づいて、ドアまで出て行く。
寝ながらチラッと見てたら、伊織さん越しに見慣れた背の高い黒髪。
「加藤くん来てくれたから、私行こっかな。私も荷物降ろしてくるね?あとでね!」
伊織さんがそう言って部屋を出て行く。
シゲの顔をちらっと見たら、涙がこぼれて来ちゃって困る。
なんで今まで平気だったんだろう。
なんで今まで気づかなったんだろう。
ふとんを頭までかぶって隠れる。
泣いてるとこ見られたくない。
シゲがお布団のそばに座る気配。
「……大丈夫?」
「………」
「わり、俺運転荒かったかも」
「………」
「A…?」
その時ブーってバイブ音。
シゲの携帯が鳴ったみたい。
「……おやすみ」
って小さな声で言って、シゲが電話に出ながら部屋を出て行った。
シゲのことは友達で、香也子も友達。
伊野尾くんのことは応援できるのに、エマちゃんのことはなんか嫌なふうに見てた。
嫉妬。
この感情にやっと気づく。
何が「争い事を好まない私」だろう。
嫉妬もなく、叶ってほしいと切実に祈ることもなく、必死になることもなく、こんなふうに泣けることもなく、何が恋だろう。
私は今まで本当の恋を知らなかったんだ。
私は…シゲのことがすきだったんだ。
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ゆみ(プロフ) - はじめてコメ送らせていただきます!!ちなみにtwitterでは、ふーむ。という名前でフォローさせてもらっています!すっっっっっごく面白くてドキドキしながら叫びながらw読んでいます!これからも楽しみにしています。応援しています! (2017年1月23日 16時) (レス) id: 3a2ee7fa6c (このIDを非表示/違反報告)
100toi(プロフ) - くっそぉぉじぇにーちゃん のバカ!!!(お約束)まっすーにするからいいもん!…と光の速さで心変わりするルートは脳内で補完しときます。。早くきゅんきゅんシーン出てこーい!! (2017年1月23日 14時) (レス) id: fd62881687 (このIDを非表示/違反報告)
あきにゃん(プロフ) - エマちゃんに取られちゃったあ〜シゲのバカ!!!泣きそうになって心の中で叫んでます!続きが楽しみです! (2017年1月23日 12時) (レス) id: 08f945d0c1 (このIDを非表示/違反報告)
みー(プロフ) - ひゃぁぁぁぁ(´Д⊂わかるけどわかりたくないですー(´;ω;`)泣きそうになってしまいました。続き楽しみにしてます(^^) (2017年1月23日 0時) (レス) id: 0095ffd8eb (このIDを非表示/違反報告)
じぇにー(プロフ) - 有咲さん» 有咲様ありがとうございます。なかなかくっつかないストーリーに自分でもどかしくなってます...!てごにゃんの方も読んでくださって嬉しいです!またよろしくお願いします〜! (2017年1月15日 0時) (レス) id: cb9bd9d1c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2016年10月9日 21時