そして始まる日常 ページ4
野次馬と化し、校舎からグラウンドへとスマホを持って駆けてゆく一部の生徒達。
その生徒を見て、私がいる教室からも何人かの人間が好奇心に乗っ取られ教師の制止を振り切って飛び出していった。
その間にも、グラウンドには唸り声を上げているゾンビがワラワラと侵入している。
当然ながら街からもゾンビが溢れ出し、そこに取り残された人間達の悲鳴やらなんやらが共鳴しては唸り声へと変化していく。
ああ、この光景を私は何度も何度も見返してきた。
間違いない、見紛う事なんてありえない。
突然ウイルスが爆発的に撒き散らされ、人間がどんどん感染していくこの現象。
まさにパンデミックとしか言いようがない。
このままだとグラウンドからこの校舎にいる人間も皆感染してしまうのでは…
私がそう予感した頃にはもう遅かった。
グラウンドに出た生徒が見事に感染したのだ。
あの気味の悪い唸り声を上げながら。
『…おい、これまずくね?』
と、誰かがボソリとグラウンドを見下ろしながら呟く。
それを合図に、クラスメイト達は一斉に教室の外へと駆け出した。
押すな蹴るな、退け邪魔だ。
普段の彼らは仲がいいはずなのだが、そんな罵声を浴びせながら廊下を全力で走っていく。
教師も指示に従えと叫びながら生徒を追いかけ教室から出ていった。
私たった一人だけを置き去りにして。
窓の外ではゾンビが順調に増殖を始め、廊下からは他のクラスからもこの状況に怖気付いて逃げ始めた生徒達とその怒号が溢れている。
これをパニックと言わずになんと呼ぶべきだろう。
今この場で私以上に冷静さを保っている人間はいるだろうか。
そんな事を考えながら、ただただゾンビと化していく生徒達を見下ろす。
逃げる事もせずに、ただ淡々と無慈悲に人間の喉元に噛み付くゾンビを見つめた。
そして校舎の1階からも悲鳴と断末魔が聞こえ始めた頃。
「よっ…しゃぁぁぁぁぁッ!キタキタキタキタキタッ!
なんだこの俺得な状況ッ!勝った勝ったこれで私も勝組だぁぁぁ!」
私は悲鳴や唸り声に負けず劣らずな奇声を上げた。
それは何故か?
さあ、何故だろう。
ただ私は、何故かこんな瞬間を待ち侘びていたのだ。
こんなゲームの様な世界に迷い込む事を夢見ていた。
だからだろうか。
私は恐怖や不安よりも興奮や楽しみを強く感じていた。
ここで、この世界でなら私の思う普通の日常を送れる。
私はそんな希望を胸に抱いて、鞄を掴んでやっと廊下へと飛び出した。
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作者名:Guilty | 作成日時:2019年5月28日 2時