旧・黒髪とサファイア III (ページ14)

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ピクシー妖精の件以来、ロックハートは教室に生き物を持って来なくなった。代わりに、自分の著書を拾い読みしては劇的な場面を演じてみせた。そして、相手役には大抵ハリーを指名した。
今日のハリーは狼男の役だった。

「ハリー。大きく吠えて＿＿そう、そう＿＿そしてですね、信じられないかもしれないが、私は飛びかかった＿＿こんなふうに＿＿相手を床に叩きつけた＿＿こうして＿＿片手で何とか押さえつけ＿＿もう一方の手で＿＿非常に複雑な＂異形戻しの術＂をかけた＿＿」

「…そんな呪文で狼男が戻るわけないじゃない。」

斜め後ろの席でアンが呻いた。ロックハートにもそこそこ好意的だったアンだが、グールお化けの授業の時から嫌気がさしているようだった。(「対処法が酷すぎる！グールお化けはあんなのじゃ倒せないのに…。」)振り向くと、アンは不満そうだったが、ラベンダーとパーバティーは夢見る表情をしていた。
終業のベルが鳴り、ロックハート劇場は終わりを告げられた。

「宿題。ワガワガの狼男が私に敗北したことについての詩を書くこと！一番よく書けた生徒にはサイン入りの＂私はマジックだ＂を進呈！」

隣に座るハーマイオニーの目がギラリと光った気がする。きっと気のせいではない。
みんなが教室から出て行き出すと、あたしたち何時もの５人組は教室の後ろの方に集まった。

「みんなはいなくなった？」

「大丈夫。」

ハーマイオニーが先頭に立って、みんなでロックハートに近づいた。

「あの＿＿ロックハート先生？私、あの＿＿図書館からこの本を借りたいんです。」

紙切れを差し出すハーマイオニーの手は、かすかに震えていた。

「参考に読むだけなんです。」

レイが素早く付け足した。ハーマイオニーが続けた。

「問題は、これが禁止の棚にあって、それで、どなたか先生にサインを頂かないといけないんです＿＿先生の＂グールお化けとのクールな散策＿＿に出てくる、ゆっくり効く毒薬を理解するのに、きっと役に立つと思います…。」

ロックハートがニッコリ笑った。

「あぁ！あれは私の一番のお気に入りの本と言えるかもしれない。面白かった？」

「はい、先生。本当に素晴らしいわ。先生が最後のグールを、茶漉しで引っ掛けるやり方なんて…」

アンは不満たらたらだったけどね。その返答はおべんちゃらでは無く本心のようだった。

「そうね。学年の最優秀生をちょっと応援しても、誰も文句は言わないでしょう＿＿。」