31 ページ31
夜、7時。
最近、日が落ちるのが早くて、なんだか寂しい。
ぼんやりと光る体育館の窓を眺めていると、不意に名前を呼ばれる。
『A』
愛しい愛しい声で。
「二口、」
『おう、帰んぞ』
まだ、少しだけ伸びる、二つ並んだ影を眺める。
いつもと同じ歩幅で
いつもと同じ距離で。
右斜め前の、二口堅治の背中を眺める。
「ねー二口。」
右斜め前の二口堅治の左手を、キュッと掴む。
『あ？』
経験豊富そうな見た目とは裏腹に、ぎこちなく絡まる指。
「ふふ」
『なんだよ、きめえな』
「うるさいでーす」
少し汗ばんだ手を握る力を、少しだけ強くする。
それに応えるように、二口堅治は振り返る。
『数学の教科書、26ページのさ』
二口堅治は、バッグから数学の教科書を取り出す。
『ココ。』
綺麗な、長い指で、指されたところを見る。
「にろ、じゃん？」
『はぁ、くだらねぇな』
フッ、と微笑んで、二口堅治は私の方を見る。
「うるさいなあ。そんくらい、好きだったの」
私も、二口堅治の方を見る。
いつの間にか、道に並んだ影は見えなくなって
街灯の明かりで塀に映った二つの影は、並んでて。
『知ってた』
そう言って、立ち止まる。
『ずっと知ってたし、26ページに印つけてんのも可愛いと思ったし、数学の時間も俺の事考えてんだアホだなって思ったし、』
あー、すっげぇ好きだって、思ってた。
「......」
顔があげられなくて。
嬉しくて。
今、二口堅治の顔を見たら、泣いてしまう。
『な、』
前髪を、そっとかきあげられる。
『はっ、あほ面』
上を向くと、二口堅治が優しく微笑む。
『そんなきたねえ顔には、キスできねぇんだけど』
からかい、笑う。
「うるさい」
鼻をすすって、涙を拭う。
「待たせすぎだ、バカ」
『おう』
街灯の明かりと、街灯の明かりの間の、暗闇で。
重なる影は、見えないけど。
優しくて、不器用で、素直さの欠片もない
そんなキスを、三回した。
「ね、大好き」
『バーカ。』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 149人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
匿名 - ぁ……あぁああ……あ…………しゅき…………青春してやがる……末永く幸せになりやがれ…… (2019年1月6日 12時) (
レス) id: 63c38f32d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 本当に面白かったです！鎌先さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん！！！ (2018年8月15日 8時) (レス) id: 7cb4aff4ff (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ(プロフ) - アップルパイさん» ありがとうございますすすすすすすす！こんな小説を読むために生きていたのですか...本当に、嬉しいです。 (2017年10月24日 23時) (レス) id: 6760a7cf82 (このIDを非表示/違反報告)
アップルパイ - あぁ、私はこの小説を見るために生きて来たんだなぁ。と、凄く思いました。素晴らしい小説をありがとうございましたあぁぁぁぁぁぁ!! (2017年10月24日 23時) (レス) id: 241a2bf209 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ(プロフ) - 鈴姫さん» ありがとうございます！！ほんとに、そのような言葉を頂けるだけで感謝しかないです(･_･、) (2017年10月24日 22時) (レス) id: 6760a7cf82 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆゆ | 作成日時：2017年8月25日 20時
