彼女はもともとⅢ (ページ37)

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幸運児の仕事ページ37

「A〜！」

『……』

べそべそと泣きながらぐりぐりと頭を肩に擦り付けるように揺らす
落としそうになった瓶を握ってそちらに目をやる。

「A…？」

『…えっと、どうしたのラック君。』

ラックって呼んでよ！
ニコニコと私の手を取って握手をする。
瓶ごと包まれる大きな手

「ねぇねぇ！次の試合久々に一緒に出てみない?」

予定ある?と彼は笑う。
なんでそんなに楽しくもないのに笑えるの?

『…わかんない。』

「…？」

『ラック君が、なんでそんなに笑えるのか、わからない…』

彼はん〜…と口を覆う。
しばらく考えた後に彼はニパッと笑う。

「なんでだろうね!僕もわからないや」

『面白くもないのに笑うの?』

「ちがうよ、僕にも笑わない日はあったよ。

でもね、笑う門には福来たるって美智子さんに教えてもらった。
僕は自分で言うのもなんだけど、ラッキーボーイだからね!」

そっか。

『自然に笑えてる君が、とっても羨ましい』

「Aも笑えるよ」

かれは私の頬を引っ張って口角を上げる

「ほら、これで笑ってるということになるんだよ。」

彼は指を私の口角から離すと笑うと君にも幸運が訪れるよ
と
私の目の前で両手を組んだ。

「君に幸運が来ますように。笑えますように」

『……私は笑えるのかな。』

「笑えるよ。僕だけじゃなくて、みんないる。
笑えないなら周りを見ればいい、よくよく見てみたらみんな面白いんだよ!」

だから、と彼は私の両手をにぎりこむ

「現実から目を背けないで、周りを見て。僕だけを見て」

手に持っていた瓶はゆっくりと手から離れ
落ちた瓶は割れて
瓶の中のピンク色の小さな飴のようなものはコロコロと消えてしまった。

「僕は幸運児。君が消える前に助けられてとっても光栄だ」

片付けておくから。君はそこにいて、と彼は私を座らせて瓶のかけらを拾っていく

ばぁんとドアが勢い良く開きエミリー先生は入ってきた。

エミリー先生は割れた瓶とラベルを見て、私と今の現状を見て、半泣きになりながら私を抱きしめた

「生きていてくれてよかった…」

こんな真似二度としないで、お願い

と荒い息と弱々しい声で私に囁いた。